母の待つ里

お客さんの中でも1番ちよという人間を客観的に見ようとした人。自分もいい大人だし立場もある。だからこの人なんて言い方をしたのだろう。新幹線を前に乗ることをせずバスに乗り込み笑い出すところは本能的な部分が出た自分がおかしかったのだろう。死の受け取り方はいろいろあると思い知らされた。

藤原のもとを訪れる「子ども」たちは4人ですが、それぞれ入り込み方にグラデーションがある。その濃さは室田>田村>松永>古賀という感じでしょうか。それは思い入れの深さの差とか、騙されやすさの差ではなく、単純に性格と歩んできた人生の差なのでしょう。

松永は社長であり、藤原の葬式も仕事を優先しようとしますが、結局は戻り、バスの中で大笑いします。この時が本当の意味で、松永が心から、藤原の中に母を見たのだと思います。

中井さんの演技は、戸惑いと分別とがせめぎあいながらも、徐々に心を開いていくのが、繊細に演じられていました。見事だったと思います。

これが嘘の世界だと分かると納得がいくけど、それまでは長いこと故郷に帰らなかった息子にちゃんと見えるから騙されてしまう。嘘の世界にのめり込みそうな危うさがあり、それが今後の鍵となるのだろう。前のめり加減にヒヤヒヤする。