しずかちゃんとパパ

耳が聞こえない人と話すにはきちんと見合わないといけないんだなと当たり前のことに気づきました。嬉しい時悲しい時、言いづらいことを言う時もきちんと目を見て話さなくてはいけない。どんな時もパパの目を見て本気でぶつかってくるしずかちゃんがとても素敵でした。

好きな人が遠い国に行ってしまうことや自分がパパを置いていけない混乱と葛藤でパパと喧嘩してしまうしずかちゃん。どんどん棘のついたボールを投げるように全身で向かっていくしずかちゃんの迫力がすごかった。とても辛辣だったのにそれを伝える手話は震えていて、傷つけている自覚があるんだなと見ていて切なくなりました。

真琴がファミレスで友達に話しているしずかちゃん像がぴったり吉岡さんにハマっていて見ていない過去まで想像できてしまうところがすごい。吉岡さんが表現するあざとさが絶妙で真琴がイライラしてしまうのがわかる気がします。

パパとの会話のスムーズさに驚かされます。普通の会話のペースで鶴瓶さんとの間も完璧で見ている方を待たせることなく物語が進むのがすごいと思います。聞こえないことを前提にお手玉を投げたり、足を踏み鳴らしたりとコミュニケーションを取る手段が豊かで自然ですごいです。

元気がよく一生懸命、少し媚びているように見えるのが同僚にははなにつくんだろうな。そのいい子とうざい子の境目を行ったり来たりするところが絶妙に上手いなと思いました。本人にその自覚もないし仕掛けているわけでもないところがよく分かりました。

演技賞は鶴瓶さんが頂きましたが、しゃべりながら通訳をした吉岡里帆さんの方が難易度が高く、セリフも圧倒的に多いので、この判断にははっきり言って不服です。演技派女優としての評価も高い吉岡里帆さん。何処をとっても今年の主演女優賞は彼女以外に考えられないと思います。

実際に聴覚障害の方と暮らしていた経験があるかのように、すごくナチュラルかつスムーズにコミュニケーションできているところが素晴らしい。間違いなく、そういう方々とのコミュニケーションを体験し、注意深く学び、経験の足らないところは練習と脚本の読み込みでカバーしているのだと思います。でなければあそこまで自然にできないことは、福祉関係か演劇関係か、どちらかでも経験している人には一目瞭然です。吉岡さんの芝居に対する真面目さと真摯さを感じます。素晴らしい。