舟を編む 〜私、辞書つくります〜

刊行日にわざわざ編集部に出向いて馬締たちに握手を求める姿、「君たちの勝ちだ」と口にする時の敗者とは思えない誇らしげで満足そうな表情、辞書編集部への敬意と労い、五十嵐自身の言葉、活字、辞書への深い愛が伝わってきてとても良かったです。あんな短いシーンでも存在感がしっかりあって、且つ唐突に差し込まれた感ゼロでスッと場面に溶け込むところもさすがだなと感じました。

社長というのは会社全体の利益を考えなければならないし、私情に流されてはいけない。会議での五十嵐はまさに社長として仕事をしている。でも大渡海が完成して編集部を訪れた五十嵐は、辞書を愛するひとりの人間として語っている。

さすが堤さんだけあり、社長として押し出しが強く、貫禄があるところと、個人として人間味あふれるところを、ひとりのキャラの違う側面として見事に演じ分けている。文句なくうまい。

西岡さんと馬締さんが玄武の由来を口にした時のハッとした表情が良かった。そこまでたどり着いてくれたのかという感動と玄武を思いついた時の初心を思い出したような顔。玄武がただの言葉じゃなくなった瞬間を見たような気がした。

古いものは全排除っていう頑なで偏った人ではなく、ちゃんと話も聞いてくれるし、説得力と勝算があれば受け入れてくれるし、根っこの紙の本を愛する気持ちは少年時代から変わっていないんだなあって感じられるところが良かった。ただ柔軟なだけではなく、きちんと筋が通っていて先の先まで読んだ話でないと取り合ってくれなそうなラスボス感があるところも良いと思います。

死神なんて言われていて、確かに辞書編集部にとって厄介な存在だけど、言ってることは筋が通ってるし、ビジネスとして考えた時に「確かに」って思える説得力もあったし、単なる敵役、ヒールになっていないところが良かったです。途中参加とは思えないドラマの世界観への馴染みっぷりと存在感もさすがです。