降り積もれ孤独な死よ

もしかしてあのケロイドは…と気づいた時、心が震えたし悲しかった。ずっと陰で見守っていて、手を汚して毒母から解放してあげたのだ。自分はあんなにひどいケロイドまで負って、その後だってずっとずっと生きにくかっただろうのに。そういえば、最初に灰川邸で襲われたのはジュンだった。あの場で花音に危害を加えようとしていたのを目撃していたのか。それを助けようとしてあろうことか花音を撃ってしまった。そしてあの時点では花音は彼をお兄ちゃんと呼んでいた人だとは気づいていなかった。いつわかったのだろう。そして健流の母は死を知った時後ろ姿では泣いているようにも見えたが笑っているようにも見えた。ゴミ箱に捨てられていた赤いカーネーションの送り主を突き止めていたことも判明。母親の復讐にしては疑問が残るし、少し出てきた健流の弟の存在も気になる。健流を殺したのは誰なのか、弟はどこにいるのか、母は何をしたのか。暴力の連鎖、虐待の連鎖が描かれてきただけに健流の弟も？と思ってしまう。

1番怪しいとされていた健流が白骨化された遺体で発見された。そうなると誰かが健流になりすまして今でも母に寄り添っている？そんなことをするのは健流の弟だけのような気もするが？それと家に黄色のカーネーションは大事にされているのに赤いカーネーションは包装もそのままに捨てられている。やはりこの母もなにかあるに違いない。そしてあざなのかやけどなのか顔にある男は花音を守ろうとしている。会話を聞いていたならば仁は明らかに花音の味方なのに？？謎が深すぎる。

潤はどういうつもりで佐伯を挑発したのだろう。当然、彼の暴力を呼び起こすことはわかっていただろうのに。暴力を受け止めることで油断させ、拳銃を奪って初期の目的を果たしたかった？結局、兄を守る形で蒼佑が亡くなってしまった。自分の中の暴力性と向き合い、自分で律することのできる未来を見ていたのに。本当に見ているのが辛くなるほどの救いのないドラマだ。潤は幻の父を見て、絶望と後悔の中自殺したのだろうか。犯人だったはずの潤が亡くなったのに、また一人また一人と亡くなっていく。今度は何が起こっているのだろう。見るのが苦しいのに見てしまう。

蒼佑も潤もここまでだったか。弟の死は仁には堪えただろう。そして7年後、生き延びたマヤも死んでしまう。こうなると他の元子供たちは不安で仕方ないだろうと想像できる。マヤが死ぬ前に謝っていたのは花音なのか？昔突き落としたことを謝っていたのだろうか。なんらかの事情を知っているのは明らかだが、何がどう繋がるのかまだまだ闇の中。暑い夏にこのドラマが始まると気温が下がるような錯覚を起こす。ヒンヤリとした空気を作り出すのがうまい。

最後まで潤のことを自分の息子だと明かさなかった。それは愛でしょ？と花音は言ったけれど、それが愛でちゃんと伝わっていたらこんなことにはなっていない。結果的に潤は命の危機もなく助かったわけだけど、経緯を知らない潤は内面を壊してしまった。牢の中で2人きりになった時に灰川が全てを打ち明け氷解していたら潤は救われただろうに。それをしなかった灰川の罪は重い。そして2人の息子を暴力的にした仁たちの父親の罪も重い。死者は罰を受けない。理不尽が降り積もる。

灰川に妻と息子がいた。幸せな時間があったのだと思うとなんだか嬉しい。顔のあざを全く気にせずにいてくれる妻、子供まで生まれてどんなに幸せだったろう。だけど妻に暴力を振るっていた前の旦那が暗い影を落とす。そのせいで子供が無戸籍になるなんて理不尽だよね。その子供が回り回って警察にいるなんてどういうこと？戸籍を後から作ったのだろうか。それでもじゅんという名前を変えなかったのは愛なのか憎しみなのか、灰川邸の事件の首謀者なのかとても気になる。

灰川の幼少期もまた酷い話でした。でも今よりもっともっと差別や偏見が多い時代、顔にあざがあったりいろんな障害がある子が家の中に閉じ込められて育てられるって話は珍しくなかったと思う。せめて親くらいは愛してあげて欲しかったけど、手のひらにバツの印をつけるなんて酷い親だ。自分が愛せないことを棚に上げて他人と親しくするのを面白く思わないってやばい。そんな親を自らの手で殺して自由になる灰川を誰が責められるだろう。救いようのない話が続いてしんどい。

仁と蒼佑の過去は苦しくてしんどかった。押入れにしか隠れられず祈るように手を握りしめている仁、大人になってもその癖が抜けないなんて心の傷は大きい。そしてその2人も自分の暴力性に悩んでいる。それは血なのか体験なのか、分からないが苦しいだろう。蒼佑は自分だけ逃げたと仁を恨んでいるけれど、あの場合母親が危険を分かっていながら逃げることをしなかったことが一番の罪だろう。子供の耳を塞ぐことでも暴力に耐えることでもない。2人の子供を守れなかった罪は大きい。

暴力を振るう旦那なら即捨てるに限るけど、子供となると難しい。自分が見捨てたせいで世間で悪いことをしてもらっても困るし、自分ならなんとかできるんじゃないかという思いもあるかもしれない。それより何より情があり簡単には切り離せない。それでも殴った後は泣いて謝るっていうのはもう末期だろう。ただそういう問題が起きた時誰に頼ったらいいか分からない。虐待する親を狙った連続事件は同情の余地はない。同じ暴力なら正義のために使ってほしい。

すごく面白かった。生き残った子供達からは絶大な支持を受け、一方で白骨遺体が転がる屋敷を所有する灰川。子供たちの救世主では終わらない闇が気になる。虐待されてご飯もろくに食べられない子供に生きるすべとして万引きを教えるのはどうなのか。でも食べられずに死ぬほうがいいとは思えない。善悪を越えたところで必死に生きている子供たちがいる。それを救うのが警察だったり福祉だったりじゃないのもわびしい。救われた子供たちが灰川を妄信的に慕うのもわかる気がした。