婚姻届に判を捺しただけですが

柊から明葉と復縁したと聞いた時の自分のことのように嬉しそうな笑顔、美晴の妊娠が分かった時の頭をぶつけるくらい飛び上がって大喜びする姿、家族への愛に溢れた温かな演技がとても良かったです。前に柊と唯斗がババ抜きをした時、唯斗が「お兄さんがわざと負けてくれていた」と指摘していたけど、回想シーンがなくてもその姿が目に浮かぶくらい、誰に対しても優しくて気遣い屋さんの性格が、穏やかな雰囲気や人の良さそうな笑顔から感じられるところも素敵でした。

主人公の柊にとっては兄であり、愛する美晴を奪った人でもあるわけで、視聴者の視点で言うならば柊とこの旭という人物の違いはどこにあるのか考えてしまいます。しかしそれを提示するのはいつも柊か美晴で、旭自身が前面に出てくることはほとんどありませんでした。けれど少ない出演シーンの中で、美晴を背負って帰るシーンや姿を消した彼女を気に掛けるシーンなどに、旭の不安や弱さが見え隠れします。人が良い感じというだけでなく、隠れた不安を表現してもらうため前野さんというキャスティングだったのだろうと推察します。つまり旭は美晴が何か問題を抱えていることになんとなく気づき、不安を感じていながら、それを必死で否定しようとしていたのだと思います。前野さんはその辺りをうまく表現していたと思います。

柊が勝手に離婚したことをかなり怒っていたけど、2人だけの兄弟なのに何の相談もしてくれないことが寂しかったんだろうなあ。怒っていてもちゃんと愛情が感じられる温かな雰囲気が素敵です。明葉のことも「あきちゃん、あきちゃん」って本当の妹みたいに可愛がってたし、相手の機微に敏感だし、出番は少なめでも、誰に対しても情が深くて優しい人柄が伝わってくるところも良いと思います。

来るなって言われたのに思わず迎えに来ちゃうシーン、美晴が心配でいても立ってもいられずという気持ちが逸る様子が伝わってきて良かったです。美晴が笑っていればそれで良いというのも本心だろうけど、柊の言葉でちゃんと自分の気持ちと向き合って、やっぱり自分の傍にいて欲しいと素直に気持ちをぶつける姿も格好良かったです。美晴にプロポーズする時にサプライズが下手過ぎるところも旭らしさがあって微笑ましかったです。

柊と美晴が夫婦に間違われたことを明葉に謝ったり、皆でやろうと思ってとウノを買ってきたり、相変わらず優しくて気遣い上手で素敵な旦那さん。俺は慣れてるからと言う時も卑屈さが全然なくて、全てを受け入れてくれるような懐の大きさが感じられ、美晴が「理想の家族を作れる」と結婚を決めたのも分かる気がします。

坂口健太郎さんと前野さんが兄弟というのはギャップがありすぎで、本当ならばコンプレックスを抱くのは前野さん演じる兄の方のような気がします。それが美晴という存在が逆転させているところに、設定のポイントがあると思います。ドラマで描かれるかわかりませんが、兄には兄なりに弟への複雑な思いがあった筈です。前野さんの演技は一見するとただ明るくて人の良い兄ですが、どこか兄らしく抑え込んだ何かを感じます。だから美晴はこちらに惚れたんだと感じさせる奥深さがあります。

イケメンの弟の同級生をどうして射止められたのか、なんか見ていれば分かるような気がします。欲しい時に欲しいものをスッとあげられる人なんだろうな。アキハが失敗した時も全然怒ってなかったし結婚相手には向いているんだろうな。

仕事の帰りにお土産買ってきてあげたり、嬉しそうに試作品を試食したり、美晴との仲睦まじい様子が自然で良いですね。この人と一緒に暮らしたら楽しくて笑顔いっぱいの毎日が送れそうだなという説得力があって、美晴が結婚相手に選ぶのも「自分とは毛色が違う」と柊が少しコンプレックスのような気持ちを抱くのも分かります。短い出番でも毎回ちゃんと印象に残る温かみのある演技も魅力だと思います。

さっそく明葉のことを「あきちゃん」って呼んだり、注文の失敗も責めずに頑張りを認めてくれるし、気さくで大らかな性格が優しい笑顔から滲み出ているところが素敵です。一緒にいると楽しそうだし、ホッと安心出来る温かさもあって、美晴が柊ではなく旭と恋に落ちて結婚した説得力がちゃんと感じられるところも良かったです。