燕は戻ってこない

いつものポーカーフェイスを崩さないながらも予想外の出産に戸惑い、こんなはずじゃなかったと怒り苦しんでいるところがすごくリアルだなと思った。いつもの顔でお二人にもお腹切って欲しいって、経産婦なら分かりすぎる表現で笑ってしまった。

千味子の来訪に戸惑いながらもだんだんと人のいる家の雰囲気に和やかな表情になり、甲斐甲斐しく世話をされることに顔の筋肉が緩んでいくところが良かった。少し嬉しそうな顔も覗かせるから情が移ってしまいそうだ。

不幸を絵に描いたような顔とはこのことかと思うほど口角が下がっていてみすぼらしい。そんな理紀もりり子と会って最初は突拍子もない話に動揺しつつも自分の前に広がった想像もしていなかった世界へ思いを馳せるうちにどんどん明るい表情になっていくのが素晴らしかった。こんな顔もできるんだ、となんだか安心した。

色っぽいシーンも冷めた目で演じ続けるところに理紀の考えていることをいろいろと想像したくなる。自分の遺伝子にこだわる気持ちや奥さんがいるのに理紀を誘う気持ちとかそういうのを下に見ているような冷たい気持ちが透けて見える。ラブホに入ったことを最後まで顔色を変えず隠し通した気の強さが理紀っぽくて良かった。

石橋さん事態が裕福なご家庭の出身でこんなに肩身の狭い経験はないだろうに、何年も着ているようなコートを着て節目がちで口角が下がっていると不幸の塊に見えてくる。口も重く出てくる言葉も重い。漂う空気さえ重たくて辛さが伝わった。

悲しみより諦めの表情が長年の苦労を感じさせます。自転車を積まれてしまった時も誰に助けを求めるでもなく自分で下ろすことが当たり前のよう。全てのことを相談することすら諦めているみたいに見える。少しでも笑える未来が来るといいなと思ってしまった。