燕は戻ってこない

対等な取引というなら1000万！は妥当だろうか。十月十日お腹に宿して産んだ子供を目の前にして、はいどうぞとあげられるのだろうか。理紀はまだどんな感情になるか分かっていないのに引き受けて大丈夫か？そして基も。生まれてくる子が健康で五体満足だとばかり思っていないだろうか。それでもし何かしらの問題を持った子が生まれてきたらどうするつもりだろう。それでも自分の遺伝子だからと受け入れられるのか？みんなの思慮が足りなくてそこに生まれてくる子はかわいそうだなと思った。

結婚したからには跡継ぎをと言われでも子供を持つには絶望的だとしたら、代理母という選択はその状況を打破するためには最も効率的で画期的なアイデアなのかもしれない。倫理的な部分とかをすっぽり抜けば基のような考え方になるのかもしれない。だけど悠子は割り切れない。どちらの言い分も分かるからなかなか答えはでない。理紀の半生も過酷だ。貧困はわかっていたけど今までろくに愛されたこともない。せめてどちらかがクリアできていたら違う人生があったんじゃないかと思うと切なかった。

これが自己責任の成れの果てかと胸が苦しくなる。政治家はここまでの貧困を想像できているだろうか。女というだけで賃金を低く抑えられ非正規というだけで雇い止めに遭う。大学に行けばそこそこのところに就職できるのは幻想だ。工業系の高校の方が働き口はある、だけど賃金は低い。そんな国で結婚しようと思ったり子供を作ろうと思えるだろうか。代理出産といえばかつては貧しい国の女性が担うことが多かった。これからは日本でも現実にあるかもしれない。