燕は戻ってこない

産んだ子供を3ヶ月預けますから育ててくださいって正気？そんなの誰だって情が移るに決まってるじゃん。しかも双子だよ？帝王切開した体で1人で双子を育てるの？追加料金なしで？？寝る時間ないよ？？なんかもう意味不明すぎて訳わからん。りり子が案外親切じゃないって分かったし、悠子は最悪。子供を見たら育てたいって？？アホか。産んでない子を見ただけで育てたいと思うのに、産んだ理紀が手放したくないって言う可能性は考えないのか？っていうかコーディネーターはどこいった？システムもメソッドもあったもんじゃないわ。

りり子や理紀はセックスまでは男女は対等っていうけど本当？男は気持ち良ければそれでいいけど女は頭の片隅で妊娠の可能性を考えたりしていない？その時点で対等ではないでしょ。人間が妊娠するまで男女どちらが妊娠するか分からない生物だったらこの世界はどうなっていたのだろう。そうならない限り対等にはならないような気がする。さてさて理紀は出産したら草桶家で赤ちゃんの面倒を見るのだろうか。基はともかく千味子さんは子育ての経験があるのに一年だけとはよく言ったものだ。一番ヤバいのは千味子だな。

あんなに違約金は取らないし黙っているから産んでほしいって言ったくせに悠子はあっさり基にお腹の子は誰の子か分からないなんて言っちゃうのね。まぁ後からバレたらどんなトラブルになるか分からないから仕方ないか？でも体がエイリアンに占領されているような気持ちになるのは分からなくもないけど、子供を引き取ってもらえないなら中絶しますと言い切る理紀もすごい。代理母としては情がない方がいいけどそこまで言い切れる人ってなかなかいない。何かが欠落してるのかと不思議に思った。

いやーなんというか、凄かった。凄すぎて2回見てしまった。千味子がメインなのだけど、感情が別人のように振り切れる。理紀の前では甲斐甲斐しく世話を焼き妊娠の辛さを分かり合い母親のように接する。そして悠子の前では理紀を違う人種だとこき下ろし、汚いものを見るような目で見る。正反対の感情が出るんだけど、どちらも嘘じゃない感情なのだと気づく。つまりは理紀を違う人種だと思わなきゃやっていられないのだ。汚いものは自分で、押し付けた先の理紀を直視することができないのだ。丁寧に千味子の内面が作られていてすごい脚本だなと唸った。

人工的に受精されることを機械的に感じそれに抗うように二人の男性と関係を持つ。まぁ代理母を1000万で請け負うと決めたならやったらいけない行為だよね。だけどこれが本能かなと思った。理紀の中にある本能が抗ったと思うと興味深い。そしてその子を堕ろさないでという悠子も興味深い。基とその母親が血統や子供をランク付けするような考えを持つのはそういう世界に自分たちもいたからなので一概に責める気にはなれなかった。でも双子だからコスパがいい‥とはいけ好かない親子だ。

小さな小さな世界で生きてきた理紀にたくさんの選択が迫り手にしたことのない大金が入る。それを見ているだけで心配になり不安が募るので見ていて苦しくなる。誰かに代理出産のことを言いたかった気持ちは分かるけどダイキに言って大丈夫なのか？一人暮らしを選んだけど後でイチャモンをつけられるくらいなら身の潔白のために用意してくれた家で過ごすのも悪くないのでは？とか理紀が危なっかしくて見てられない。どうかこれ以上理紀に不幸が訪れませんようにと願うしかない。

対等な取引というなら1000万！は妥当だろうか。十月十日お腹に宿して産んだ子供を目の前にして、はいどうぞとあげられるのだろうか。理紀はまだどんな感情になるか分かっていないのに引き受けて大丈夫か？そして基も。生まれてくる子が健康で五体満足だとばかり思っていないだろうか。それでもし何かしらの問題を持った子が生まれてきたらどうするつもりだろう。それでも自分の遺伝子だからと受け入れられるのか？みんなの思慮が足りなくてそこに生まれてくる子はかわいそうだなと思った。

結婚したからには跡継ぎをと言われでも子供を持つには絶望的だとしたら、代理母という選択はその状況を打破するためには最も効率的で画期的なアイデアなのかもしれない。倫理的な部分とかをすっぽり抜けば基のような考え方になるのかもしれない。だけど悠子は割り切れない。どちらの言い分も分かるからなかなか答えはでない。理紀の半生も過酷だ。貧困はわかっていたけど今までろくに愛されたこともない。せめてどちらかがクリアできていたら違う人生があったんじゃないかと思うと切なかった。

これが自己責任の成れの果てかと胸が苦しくなる。政治家はここまでの貧困を想像できているだろうか。女というだけで賃金を低く抑えられ非正規というだけで雇い止めに遭う。大学に行けばそこそこのところに就職できるのは幻想だ。工業系の高校の方が働き口はある、だけど賃金は低い。そんな国で結婚しようと思ったり子供を作ろうと思えるだろうか。代理出産といえばかつては貧しい国の女性が担うことが多かった。これからは日本でも現実にあるかもしれない。