フェイクマミー

振り切れ方が凄かった。いろんな重圧を1人で背負い込み限界を迎えた人ってこんなんだろうなと思えた。解放してくれって叫んでいるみたいで哀れだとも思った。全てを失いはしたけど憑き物が落ちた顔は柔らかで人間を取り戻したようで良かった。こんなに落差のある役を一つのドラマの中で演じてすごいなと思った。

登場するだけで気分が悪くなるくらい、徹底的にヒール役を作り込む演技力・表現力が凄かった。社長を解任された後の憑き物が落ちたような穏やかな表情も印象的で、薫たちだけでなく、本橋家も良い方向に変わっていけそうだなと明るい未来が感じられたのも良かったです。

茉海恵の会社に来た時の、ちょっとクネっとした動きや猫撫で声、ご機嫌な微笑み、全てがゾワっと鳥肌立つくらいの嫌悪を感じさせてめちゃくちゃ気持ち悪かったです。表現力がすごい。会社の成功もいろはの天才ぶりも自分のおかげって言葉にも、茉海恵を下に見ている本橋の傲慢さが滲み出ていて、嫌味や皮肉じゃなくて本気でそう思ってるんだなって伝わってきて良かったと思います。

別れ話の時に茉海恵に縋ったり大声で名前を叫んだり、空っぽになった茉海恵の部屋で子供みたいに泣きじゃくったり、立場や年齢とチグハグな本橋の幼稚さや弱さが垣間見れたのが良かった。茉海恵の写真を手に取った時のヘビのようなジトっとした目つきも絶妙に気持ちが悪くて、茉海恵やいろはへの強い執着を感じさせてゾッとしました。

茉海恵にいろはが自分の子だと確認するシーン、やたら穏やかな声のトーンや距離の近さ、優しげだけど傲慢さの滲む口調、終始背筋がゾワっとするような嫌悪感を漂わせているところが良かったです。さゆりとのレストランでの会話も表面的で対話になっていなくて、「夫の意見が私の意見」というさゆりの言葉を体現していて良かったと思います。

家族でいたら1番疲れるタイプよね。子供を可愛がったかと思えば夕飯は？の一言に知らなーいと言って出かけてしまうとか。子供にママ似だよといういいのか悪いのか分からないニュアンスで言うとか。相手方の神経すり減らすのがうまい。

エレベーターのボタンを異常なくらい連打しまくったり、誰が聞いてるか分からないのに、わりと大きめの声で上司の愚痴を延々こぼしたり、苛立つと感情を抑えられない本橋の内面の幼さや人間の小ささが伝わってくる演技が良かったです。茉海恵が浮気なんてするわけないって秘書に怒ってたけど、彼女を庇うというより「自分が浮気なんてされるわけない」という自信の方が勝っているように聞こえたのも本橋の人柄が感じられて良かったと思います。

なかなかの圧だったねー。声を少しも荒げることなく追い詰めていくところが怖いよね。言葉選びも絶妙でこちらに非があるように持ってくるところが完全にモラハラ夫になっていた。息子と嫁に圧の掛け方を微妙に変えているところがより怖いと思った。

さゆりと息子へのモラハラっぷり、めちゃくちゃリアルでぞっとしました。大声で怒鳴るわけじゃないけど、絶対に逆らわせない圧と、ネチネチ陰湿な言葉選びと口調、鋭い視線が怖くて、さゆりと息子にとりあえず謝るっていう習性が身についてしまうのも分かる。学校の階段を昇ってくるシーンも茉海恵と鉢合わせるか？！ってハラハラさせられました。