魔物(마물)

大声で怒鳴ったり暴力振るって暴れるのも勿論怖いけど、瞬きをせずにじっとあやめを凝視したり、淡々と静かな口調で執拗に問い詰めて束縛する姿も、いつ豹変するんだろうっていう緊迫感が増して余計にハラハラさせられる。野犬のような荒々しい狂暴さがあるのに美しさと品はずっと保っていて、泣いて縋るような脆さや儚さもあって、それは塩野さんだから出せる魅力だと思うし、やってること最低なのに女性たちが彼から離れられない説得力に繋がってるところも良いと思います。

とんでもなく美しい顔と体で魅了する彼。妻も彼女も暴力を振るっても彼から離れることができないのはそれだけ彼が魅力的だからだろう。スイッチが入れば容赦なく全てを破壊する勢いなのに、傷つきやすいナイーブさがあるのがずるい。

夏音を連れ戻そうとするシーン、めちゃくちゃ怖かった。他人が見てようが一切構わず激昂する姿とタクシーのドアに縋ってまで夏音を追いかける執念が、頭に血が上ると激情が抑えられない凍也の暴力性と夏音への強い執着を感じさせました。あやめとの甘いシーンの後だったから余計にそのギャップに驚かされました。

涙を流しながらあやめに謝る姿や「あなたのことしか考えられない」と縋るように訴える切実な声が、建前ではない心からの言葉、想いを感じさせて、別れを告げたあやめの心を揺らし絆す説得力があったのが良かった。あやめへの愛は本物だって伝わるけど、一方で夏音がいなくなった時の狼狽ぶりも尋常ではなく、夫婦の異様な結びつきの強さを再認識させられて印象に残りました。

優しくて甘い姿とラストの暴力的な姿のギャップが凄い。嵐のような暴れっぷりと叫ぶような喚き声から凍也の激しい嫉妬と激情、孤独が伝わってきて、めちゃくちゃ怖いし暴力はホント最低なんだけど、それでも何故か惹きつけられるというか、そんな姿を見ても嫌悪に直結しない不思議な魅力があるところも良かったです。

とにかく美しい。キスシーンもかくどやらなんやら全て計算し尽くされたような美しさにうっとりする。そうかと思えば急に逆上したりして静と動が表裏一体で目が離せない。暴力的なところもただの粗暴な感じはなく凍也の中では善なのだろうと思った。

名田から妻の指輪を渡された時の乱暴に奪い取る姿や刑事に煽られた時の反応が、凍也の嫉妬深さや沸点の低さを感じさせ、「あの外面は一瞬で豹変する」という刑事の見立てに説得力を持たせていたのが良かったです。表情の変化があまりなく、何を考えてるか読めない人だけど、あやめの話を聞いてほんの少し目を見開いたり、じっと見つめたり、目の表現で彼女に興味を持ち惹かれ始めてることが伝わってくるところも良かったと思います。

美しくミステリアスで、紳士的だけど何処か冷たさもあって、どんな人なのか掴めない雰囲気が魅力的であやめが心惹かれてしまうのも分かる。覗き込むようにあやめの顔を見つめたり、「別の顔も見てみたい」と思わせぶりな発言をしたり、魔性っぷりも発揮していたけど、品があってあざとさやチャラさを感じさせないところも良かったです。