さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜

天音の見事な演奏と音楽への熱い思いを聞いて、涙する姿がとても良かったです。娘の凄まじい努力と成長、いつの間にか自分が思っているよりずっと大人になっていた現実を目の当たりにして胸がいっぱいになっているのが感じられ、言葉以上に伝わる思いがありました。8話ではただ冷たいだけではない、しっかりレールを敷いて導いてやらないとっていう親としての責任感と白石なりの愛情も覗かせていたので、これを機会に親子関係が良い方向に進んで欲しいな、笑顔で天音と向き合って欲しいなと思いました。

天音の必死な訴えを聞いた直後の言葉が「楽器を返してきなさい」だったのが悲しい。娘が泣きながら一生懸命本音を口にしているのに、全く心が動いていないところや、口調も表情もすごく冷たいというか、他人の子供に接するような距離感があって、情を感じさせないところも上手い。こんな思いをさせられても、それでもこの父親と一緒の方がまだマシだと考える天音の家庭環境の悲惨さ、孤独をより際立たせていたのも良かったと思います。

晴見フィルのラストコンサート開催を知り「せいぜい楽しむが良いさ」と不敵に笑って去っていく姿が怖くて印象に残りました。市長としてお荷物のオケをどうにかしたいっていう政治的なものより、音楽自体に強い嫌悪感や個人的な恨みを持ってるように見えるんだよなあ。天音と苗字が違うし、親子とは思えない距離感と冷たい雰囲気も気になります。

レストランで晴見フィルのコンサートに鉢合わせた時の忌々しそうな表情が印象的でした。市のお荷物・厄介ものっていう苛立ちだけではない、もっと根深い憎しみみたいな強い感情が滲み出ていたのが気になる。接待相手がいる手前、張り付いたような笑顔で形ばかりの拍手を送る姿も、その後スッと笑みが消えるところも内心腸が煮えくり返ってるのが伝わってきて怖かったです。

演奏会のチラシを剥がすシーンが乱暴で心底忌々しそうな顔をしていて、本当に財政のことだけが問題で解散させるのかな、他に私情が絡んでいるのでは？と深読みしたくなるインパクトがありました。一見スマートで紳士的だけど、やってること割と陰湿だし、古谷への態度も嫌味で感じ悪かったし、敵に回すと厄介で手強そうな雰囲気があるところも良いと思います。

夏目がオケの今後について語り出した時のサッと口元から笑みが消える感じ、「余計なことするな」っていう苛立ちや紳士ぶった白石の本性が垣間見れて良かったです。古谷に「引き際が肝心だよ」と告げる時の真顔と抑えめの低い声も忠告めいた響きや圧が感じられ、今後のオケとの対立構造を彷彿とさせて印象に残りました。

すごく爽やかそうに見えるんだけど一筋縄ではいかないんだろうなという怪しい雰囲気を出すのが上手いと思います。表向きは夏目を歓迎しながら本当は全然真逆のことを思ってそうなところも分かりやすくて良かったです。

一見丁寧で人当たりも良さそうだけど、ホールを建てた前市長について語る時の少しうんざりした口調や、「クラシック愛好家は人口の１％」「音楽で町は潤わない」など音楽への理解ゼロな発言、それを音楽家である夏目の前で口にする強気な姿勢、今後夏目やオケと真っ向から対立していくんだろうなという伏線ばっちりな登場シーンが印象深かったです。スーツをキチっと着こなした小慣れた雰囲気も、若き優秀な市長って感じが出ていて良かったと思います。