しあわせな結婚

8話ラストの幸太郎とのシーン、全く共感は出来ないし歪んでるって思うんだけど「ネルラならそう考えるだろうな」「ネルラなら言いそう」って説得力があるのが凄かった。ミステリアスで狂気じみてたり、かと思えば空虚に見えたり、子供みたいに無邪気で可愛かったり、その時々で見せる顔が違っていて掴めなくて、でもちゃんと「鈴木ネルラ」という一人の人間として成立してるところもさすがです。

考が逮捕されてみんなが落ち込んでいる時に考が作ったおにぎりを見つけて「よし、食べよう」と頬張るところが良かった。腹は減っては戦はできぬの言葉通り、これから力を合わせて頑張ろうという決意が見えたし、おにぎりから考の愛情に応えようという意気込みが見えた。

泣き出すレオを肩に抱き寄せたり、引っ越しの話を聞いた時も心配そうな表情をしていたり、単なる姉弟とは違う、レオのことを親のような気持ちで育ててきたんだろうなあっていう結びつきの強さや愛情の深さが伝わってくる演技が良かった。シリアスな展開が続く中、休職を巡るやりとりや、独特な寝相、写真撮影の時に幸太郎の変顔を真似する姿など、ちょっとシュールなチャーミングさを滲ませるところもネルラらしさが感じられて良かったと思います。

不動産屋さんに「国の土地だから住めない」って言われた時のあからさまにがっかりした姿や、「私はすごいヤキモチ妬きなんです」って拗ねる表情、道端で突然オペラを歌い出す無邪気さ、チャーミングさとコミカルさとほんのりとした怖さのバランスが絶妙で、幸太郎や黒川が心をがっしり掴まれてしまうのも分かる。意図せずに他人を翻弄してしまうネルラの不思議な魅力を、作りこんで演じてる感ゼロでサラリと見せるところがさすがだし、松さんにしか演じられないはまり役だと思います。

黒川に「真犯人は自分が見つけます、あなたのために」って言われた時の反応がとても良かった。驚いた様子もなく大きく変わることのない表情、「そうしてください」という何処か他人事のような口調と声のトーン、何を考えているのか、感じているのか全く読めなくて、そのミステリアスさと仄かに覗く怖さがネルラらしくて印象深かったです。

ネルラという人物は多分セリフを読んでも面白いと思う。でもそれを松さんがやることによってより面白くなり目が離せなくなる。ネルラの中で整理できていることも口から出るとおかしくて、それを全くおかしいと思っていないところが面白い。今までの松さんの役でこれが1番好きかもです。

あの局面で刑事の黒川相手に「好きなの？」って言葉が出てくるのが凄いけど、ネルラなら言いそう。いまだ掴みどころがなくミステリアスな感じだけど、物凄い集中力で一心不乱に絵を描く姿も、距離を置く＝離婚に直結する短絡的な感じも、何をしても「ネルラっぽい」って思えるところがさすがだなって思います。

事件当日のことや弟を亡くした時の状況など、辛い過去を話す時に、わりと表情も声音も淡々としてるというか、決して無感情ではないんだけど何処か他人事のような距離を感じるところが毎回印象深い。何を考えて何を感じてるんだろうって観ている側が好奇心を掻き立てられてつい考察してしまう、絶妙な余白のある演技が素晴らしいです。

その罪など知らないような透き通った美声で言われると全てを信じたくなってしまう。途中でいかんいかん！と持ち直さないとなんでもネルラの言う通りになってしまいそうな不思議な魅力がある。ふわふわと掴みどころがなくて振り回されている。

2200円のワンピースを嬉しそうに披露した直後の「私を人殺しだと思ってる？」が怖かった。タイミングも唐突でサラっと早口で、こういうシーンにありがちな間をたっぷり取って意を決してって感じではないところがネルラに感じる違和感や気味悪さをより際立たせていたのも良かったし、不意を突かれた感もあって、ドキッとさせられました。

発話が唐突で会話が嚙み合ってなかったり、クロワッサンの独特な食べ方だったり、寝起きの変な歩き方だったり、コミカルさとチャーミングさ、たまに覗く狂気のバランスが絶妙で、ぱっと見は普通の女性なんだけど終始違和感というか、不穏さや怖さを纏っているのがとても良かったです。あのクロワッサンの食べ方もインパクトは凄いけど全然下品に見えなくて、驚く人が大半だろうけど可愛いって思う人もいそうだなあって思えるところが、松さんならではの魅力だと感じました。

丁寧な言葉遣いと思慮深い性格が品の良さを醸し出していたけど、あの時抱きつきたかったのと言うあの時はクロワッサンをバリバリむさぼっていたりしてギャップに驚かされてばかり。ネルラの表面的な静かさとうちに秘めている情熱がすごく魅力的だ。