海に眠るダイヤモンド

リナを荒木リナとフルネームで呼ぶのはここがリナの居場所だと安心させるためだよね。大きな腕と落ち着いた声で包み込む、リナは幸せだろうな。意識が朦朧とする中、家族の名前を呼び自由にならない体を大きくふらつかせながら倒れるシーンは悲しくて見ていられなかったです。

一酸化炭素中毒で幻覚を見ても、それを振り切ってリナと誠のもとに戻ろうとする姿が端島で3人で幸せになるという進平の強い思いと二人への深い愛を感じさせました。自分のことは二の次で仲間たちを支えて助け、次々と先に救護に向かわせる姿もとても頼もしくて、皆に兄貴と慕われる説得力がありました。

出産したリナに真っ黒な顔のままで深く頭を下げてありがとうと言った進平。海へ流された妻のことをいつまでも思っていたような愛情深さが出てとても良かったです。自分では成し得ないことをリナがしてくれたという感謝の念もとてもよく伝わりました。

大慌てで産気づいたリナのもとに駆け付ける姿や、無事に出産を終えたリナに目を潤ませて何度も「ありがとう」と頭を下げる時の感極まった笑顔が、普段のクールな姿と別人みたいで人間味があって良かったです。労わるような優しい眼差しや声にリナへの深い愛情が滲んでいるのも良かったし、すごく幸せそうなのに何処か陰を感じさせる雰囲気が、2人が抱えるあの夜の秘密を思わせるところもさすが上手いなと感じました。

危険を察した進平からリナの元に駆けつけて助けるシーンがカッコ良すぎた。震えるリナを優しく抱き寄せ静かな声で落ち着くように言葉をかける様子に惚れない人はいないだろう。戦争のことを一切話さないという進平が思わず口にした一端はどんな地獄を見てきたのかと思わずにはいられなかった。

命がけでリナを助けるシーン、緊迫感と迫力が凄くて見応えがありました。発砲音にも怯まず、躊躇なく小鉄を撃ち殺す姿が戦争から生きて帰って来た元兵士の説得力を感じさせるところも良かった。「死体はあがらん」「俺がよう知っとる」という言葉も重く響いてきて、妻が亡くなってることを理解してちゃんと受け止めていたんだなって伝わってきて切なかったです。

リナを手招きするところから海に入りお供物をとりに行くシーンまで進平の独壇場のよう。色気に圧倒されて少ない言葉でがっちりリナの気持ちを掴んでいく進平から目が離せなかった。おしゃべりだったのに戦争を境に話さなくなった、何も語らずとも想像させるところが見事だ。

リナに「お供えを食べたら来年返さなきゃいけない」って嘘の決まりを教えるシーンが良かった。リナの秘密を誰にも話さない誠実さも、彼女が島を出て行こうとしてるのを察して、来年も島にいること前提で話をする姿も、幸せな人生が欲しかったというリナの思いを大切に守ろうとしているのが伝わってきて、そのさりげない優しさにグッときてしまいました。

色気が半端ない笑。妻との思い出の家を離れられない孤独さと哀愁。誰にも触れさせないような繊細さがある。弟たちの恋愛に興味なんかはないけれど横から掻っ攫っていきそうな色気がある。リナとのシーンはなにか始まりそうな予感がしてワクワクした。

いまだに家族部屋に住み続けていたり、しょっちゅう夜の海を眺めていたり、直接口にはしないけど、妻の死を認めようとしない、受け入れられない姿が見ていて辛かったです。妻との回想シーンで見せた笑顔が穏やかで本当に幸せそうだったから余計に悲しさが際立つ。嵐の中、身を挺して大波からリナを助けるシーンも、進平の勇敢さと頼もしさ、もしかしたら波に攫われた妻と重ねてしまったのかなという切なさ、色んなものが伝わってきて見応えがありました。

鉄平との仲の良い兄弟っぷりが微笑ましい。大学を卒業した鉄平を「よう頑張った」と労ったり、島で就職したことを気にする鉄平を「大学に行かせるっていうのは親父が言い出したことだ」と気遣ったり、短いやりとりだったけど弟思いの良いお兄ちゃんっぷりが感じられたのも良かったです。イキがる新人の炭鉱員たちを大声で牽制する逞しい姿も格好良かったです。