危険なビーナス

高飛車なお嬢様がそのまま育った、というところをうまく演じている気がしました。康治さん暗殺計画や、夫の不倫をうまく活用しようとするなど矢神家の中では嫌な存在の象徴だった気がします。でも最後の最後のうまくいかなくて詰めが甘い人だな、というのも感じさせました。

演技が舞台仕様だから何やってもオーバーで嘘っぽく見えちゃう。佐代さんに掴みかかるシーンや波恵さんの告白に驚き動揺する芝居など、表情もリアクションも一人大きくて浮いているし、コントみたいに見えてシリアスな空気が台無しになってた気がします。舞台だと素敵なんだけどなあ。ドラマ出演は珍しく、楽しみにしていただけにちょっとがっかりしちゃいました。

見るからに腹黒いというか、いろんな悪事を企んでそう。母親を毒殺されたと思い込んでる恨みをずっと抱えてるからか人相も悪い。やっぱりビジュアルがおどろおどろしい弟の牧雄さんにむかって、自分のことを「お姉ちゃんが」と甘やかな言葉で話しかけてる様には、違和感しかない感じ。

この人格が崩壊した意地悪役は、安蘭けけいに最適なです。

波恵さんと一緒にちょこっと出てるくらいなら良いんだけど、長台詞になると芝居が大き過ぎて違和感が…。戸田さんとならあまり感じないけど、テレビ向きのナチュラルな演技をする妻夫木さんや吉高さんと一緒のシーンだと一人浮いていて、噛み合っていない感じがします。声のボリュームも発声が良すぎて舞台仕様になってるので、もう少し抑えても良いかなと思います。

兄でも平気で殺そうとする祥子さんの身勝手さには言葉がないけど、自分では手を下さないところがまたズルくて汚い。でも、あれだけややこしい家族関係の家で、互いの腹の探り合いをしてるというのに、康治さんの部屋にカメラや盗聴器の一つも仕掛けられてると考えないのがマヌケな感じですね。
蓮っ葉さを演出するためかタバコを吸ってたけど、その吸い方があか抜けないというかダサすぎて失笑。

旦那を康治殺害計画に引きずり込むシーン、シリアスな場面なんだろうけどオーバー気味の芝居と台詞がちょっとコミカルにも見えて、でもピンと張り詰めた緊張感はずっと保たれていて、舞台を見ているような感覚になりました。勇磨たちへの憎しみを語る時の凄みのある表情や口調も迫力があって、祥子の執念深さが伝わってきたのも良かったです。

伯朗にネックレスを返したり、旦那と和解するしおらしい姿より、楓に嫌味を言ったり杏梨を脅してる時の方が生き生きして見えます。落ち着いた口調なのに威圧感があり、杏梨を見る時の見下したような眼差しもゾっとするほど冷たくて、根っからの性悪女って感じが出ていて良かったです。舞台俳優さんならではのアクの強さや存在感が祥子のキャラクターとマッチしていると思います。

楓に対してあからさまに敵対心むき出しな態度が、ネチネチ遠まわしに嫌味を言うよりもいっそ清々しくて好きです。「しらじらしい」とか「がめつい」とか、ちょっとアクセントを強調して嫌味フレーズを際立たせているところも感じの悪さ倍増って感じで良いと思います。

安蘭さんがTVドラマに出るのって珍しいですよね。台詞も出番もあまり多くないけど、低く聞きやすい声と台詞まわしの明瞭さはさすがで、分かりやすい嫌味な態度や欲深そうな表情も祥子のキャラクターがしっかり伝わってきて上手かったです。