ハヤブサ消防団

森野はそもそも役場の人間なんですよね。だから消防団でも調整役であったり、教団員に対しての過剰な行動を押しとどめたり、うまく周囲に気を配っている。性格だけでなく、そういう職業などを含めて、しっかりと人物造形がされているところは、さすが原作が池井戸潤さんなだけあります。そして演じる梶原さんは、そんな森野らしい心遣いの部分と、最後には上司である町長を叱咤するような隠していた熱い部分を見せるなど、とても人間味のあるキャラとして表現していたと思います。

「戯け和尚が」と江西に憤る宮原を「謝っとったやろうが」と諭したり、水をぶっかけて集会を阻止するという山原の案にも「何も知らん信者が可哀想」と待ったをかけたり、どんな状況でも両方の視点から物事を考えるところが仲裁上手な森野らしさが出ていて良かったと思います。森野がいてくれるから血の気の多い消防団メンバーも何とかまとまって和気藹々と活動出来てるんだろうなって最終回で改めて実感出来たのも良かったです。

三馬の前で彩への憤りを口にする宮原を窘めたり、杉森に食ってかかる勘介を必死に抑えたり、怒りや不安を抱えつつ周りをよく見て冷静さを保つ姿が森野らしくて良かったです。会見でアビゲイルを歓迎するような発言をした町長に「しっかりせえや、このアホ」と顔を真っ赤にして怒鳴るシーンは迫力があり、ハヤブサへの愛情と不甲斐ない町長への激しい怒りが感じられて見応えがありました。

「自分で火つけてどういう気持ちで消火してたんや」と泣きそうになりながら省吾に問いかける姿が印象的でした。控えめながらも溢れる感情を素直に表に出す姿が、冷静に理性を保つ山原とも感情むき出しの宮原とも違い、３人のバランスが良かったです。暴れる宮原を押さえたり、山原との言い合いを仲裁したり、こういう場でも潤滑油のような役割を担う姿も副分団長という板挟みの中間管理職らしさが出ていて良かったと思います。

耳の遠いおじいちゃんとのやりとり、コントみたいで面白かったです。何度聞き間違いをされてもブチ切れない辛抱強さも、お役所勤めで消防団でも中間管理職を務める森野らしさが感じられました。宮原夫妻の赤裸々な話が聞こえてしまった時のワクワクした顔や徳田とはしゃぐ楽しげな姿も、地元民同士の遠慮のなさや距離の近さが感じられて良かったと思います。

消防団と町長の板挟みになっている姿がザ・お役所勤めって感じで良かった。胃が痛そうに顔をしかめたり、山原たちの提案に弱腰だったり、町長に睨まれると目を逸らして口笛を吹いて誤魔化したり、色々大変そうだけど何処かコミカルさのある演技が面白く、あまり悲壮感を感じさせないところも良かったです。

「パパ～ッって簡単に書いてくれれば良いから」とめちゃくちゃ軽い感じで太郎に脚本執筆を頼む姿や、消防操法大会の練習での「太郎先生は時間があるから」発言など、決して悪気はないんだろうけどちょいちょい失礼なところが、森野の調子の良さや距離感のバグを感じさせて良かったです。こういった何気ないやりとりが、後の三馬と彩の会話に出て来る田舎の人たちの密な人間関係を彷彿とさせるところも良かったと思います。

山原と宮原の言い合いの仲裁をしたり、消防団について太郎に色々と説明してあげたり、副団長らしい頼もしさがありつつ、口調や表情がちょっと情けなくて愚痴っぽくなる中間管理職の哀愁みたいなものもあって、大勢芝居の中でも良い味出していました。火事の現場で段々息が切れてきたり、時間とともに走る足が重そうになる姿もリアルで、消火シーンの臨場感を際立たせていて良かったと思います。