新宿野戦病院

芝居自体はそつなくうまいと思う。ただ出演メンバーとのバランスなのか、相性なのか、ちょっと間が悪くてほんの少しテンポを悪くしている。こういうドタバタ劇ではそのちょっとが案外重要だったりする。そのせいで結果として高畑が欲も悪くも目立つ。本来なら誰かだけが目立っちゃいけないのがドタバタ劇。混沌が欲しいんだからね。まあそもそもこういうのに慣れている生瀬さんや紙ちゃんに合わせるのは難しいしね。「白木です」というオチのパターンを担うので、余計に気になるというところもある。こういうのは評価が難しい。高畑さんの技量の問題ではなく、脚本の問題でもなく、キャスティングの問題とも言えない。だから相性としか言いようがない。申し訳ないけど、どうしてもテンポが気になる。

マユがまごころに顔を出した時の「あら～マユちゃん」って嬉しそうな笑顔や普段より高めの声のトーンが、親戚のおばちゃんみたいで良かった。まごころが今でもマユの居場所なんだなって感じられてホッとします。壊れた体温計のくだりも、大真面目な顔で淡々としてるから余計に面白さが際立っていて、熱を測るだけなのに何度も笑わせて貰いました。

ヨウコの不在に物足りなさを感じていたり、まごころに戻ってきた時には嬉しそうに恒例の名前間違えを受けてヨウコとはしゃぎ合ったり、何だかんだヨウコのことが大好きになってるのが微笑ましくてほっこりしました。一心不乱に働き続ける享に身体を休めるよう頼む時の必死な声や辛そうな表情も、享が倒れてしまうのではと本気で心配して気遣う気持ちが伝わってきて良かったです。

星崎におばはん呼びされた時は明後日の方向を見て完全スルーなのに、「いくら？」とお金の話になるとすぐに反応してニコニコしちゃうのが白木らしくて面白かったです。星崎がクレームをつけに来て大騒ぎの時も、スタッフたちに「白木さん」と呼ばれただけで、その都度何が必要か把握して持ってくる姿が頼もしくて心強かったです。

爆破事件でまごころもてんやわんやの時、必死に仕事をしながらも旦那さんと連絡がつかない不安な気持ちでいっぱいいっぱい。すぐにでも崩れ落ちそうな心が透けて見えて応援したくなった。旦那さんと再会した時の白木、安堵で崩れ落ちるところがよかったなー。

勘違いをしてハプニングバーに突撃したり、火事の後に旦那さんと連絡が取れなくてパニックになったり、「生きててくれなきゃ白木嫌なんです」と号泣したり、感情の起伏がえらいことになってたけど、喜怒哀楽どれも旦那さんを想う気持ちが感じられて良かった。声が太くてドスが効いてるから凄んだり怒鳴ったりするシーンも迫力満点だし、極妻みたいな扮装もハマってたし、白木さんメイン回だからか、普段の気の良いおばちゃんって雰囲気とは違う色んな顔が見られたのも新鮮で良かったです。

前回横山と交わした会話をすっかり忘れて、「聞いてない」と言ってまた同じやりとりを繰り返してるシーンが面白かったです。子沢山だと知った時の反応やコメントが前回と全く同じなのも、忘れられた横山の不憫さがより際立って見えて良かった。マユの彼氏が「シラキ」だと知って嬉しそうにはしゃぐ姿も可愛らしかったです。

定番になりつつあるヨウコとの名前間違いのやりとりが面白い。はずきのようにお嬢さん扱いはしないし、態度も言動も遠慮がないけど、棘があるわけではなく、決して雑に扱ったり邪険にしないところも、医師としてのヨウコの能力を高く買っていることや、無免許だけどいてくれなきゃ困ると頼りにする気持ちが感じられて良いと思います。

「現金があれば何でも出来る」ってきっぱり言い放つシーン、カツカツのまごころを何とか回している経理の白木だからこその重みと説得力があって良かったです。受入要請の電話を受ける時も、声の演技だけで熱中症患者が多数出ていて地域全体がてんやわんやな緊迫した状態だと伝わってくるのがさすがだなと思いました。

災いをもたらす女だと言ってリツコをあからさまに敵視したり、勤続42年なのに40年と微妙にサバを読んだり、ちょいちょい見せるコミカルさやお茶目な一面が魅力的。生瀬さんとの掛け合いも、会話の内容は啓介の不倫やヨウコの出生の秘密などヘビーなものだけど、テンポが良くてコミカルさと重厚感もあって、舞台を見ているような充実感のあるシーンになっていてとても面白かったです。

やっぱりあれだけのキャストがわーわーしている中で存在感を出すって並大抵のことじゃないと思う。滑舌がしっかりしているので畳み掛けるようなセリフでもしっかりと聞き取れる。電話で新規患者さんと話す時はまごころ病院としてまごころが感じられる丁寧な口調で聞きたいことを的確に聞き取る。長年いるベテラン感があります。

院長に病院の経営難と休みの確保を切実に訴えるシーンが見応えありました。滑舌が良くて言葉がはっきりしているから、感情的になっても台詞が聞きやすいし、緩急自在な声音も魅力的で、ほぼ一人で喋り続けていても間延びした感じにならず場面がしっかり持つところもさすがだなと感じました。お札を数えている時の「ご機嫌です」って顔に書いてあるようなニコニコな笑顔もチャーミングでした。

Bluetoothが分からなくてずっとブルータスと言っちゃったり、田島先生がイケメンランキングに入ったことを喜びすぎてサウナ着のまま慌てて来てしまったりとお茶目な部分が多いのですがふざけすぎないところがコントに見えなくていいと思います。

田島の雑誌掲載に大興奮して、サウナの館内着のまま病院まで走り戻ってくる姿が面白かった。息の上がり具合やテンションの高さ、呼吸が整っていないのに夢中で喋る姿など、本当に全速力で走ってきたようなリアリティが感じられるのも良かったし、おばちゃん丸出しのミーハーっぷりも可愛らしかったです。

見た目の作り込みなのか醸し出す空気なのか、登場しただけで古株の経理っぽさ全開なのがさすが。どんな役でもその職業の人そのものにしか見えなくなるのが本当に凄いです。診療費は取れる時に取らなきゃとガツガツした姿や、ヨウコの免許問題に目をつむる病院存続最優先なところなど、お堅くきっちりした姿と都合の悪いことはサラっとスルーするちょっとルーズな一面のギャップも人間味があって良かったです。