VIVANT

黒須はもう少し裏がありそうだなと思っていたのですが、ただストレートに乃木を信用していただけというのは、良くも悪くも拍子抜けという感じはします。でもそれだけ視聴者の目を引き付けられたわけですし、脚本も演出も役者もうまかったということなのでしょう。多少、不自然さは残りますが。さて松坂さんの演技ですが、不自然な部分は脚本演出上のことなので、芝居は良かったと思います。こういうエージェントは目立たないことや、故人を特定されにくいように癖を出さないの基本。あくまでも乃木は例外。松坂さんもテントに捕らえられるまでは、二枚目なのに地味めな芝居をして、うまくバランスをとっていたと思います。

乃木に掴みかかり「俺にだけは言って欲しかった」と悔しそうに呟く声や、銃撃を避けたことを驚く乃木に「ずっと乃木さんの傍で鍛えてきましたから」と得意げな顔を見せる姿が乃木と築いてきた絆の深さや信頼関係を感じさせてグッときました。乃木の隣でサポートをする姿もすごく頼もしいし、しっくりくる。ここ何話か敵対関係にありましたが、最終回で再び阿吽の呼吸で分かり合える無駄の一切ないやりとりが見られて嬉しかったです。

乃木が仲間を殺していなかったと分かった時のパッと目に光が差したような表情がとても良かった。驚きと嬉しさと「何故？」という疑問と、色んな感情が入り混じった顔をしていて、言葉にしなくても黒須の心の内がはっきり伝わってきました。「お前」呼びから「乃木さん」呼びに速攻変わってるところも、これまでの活動で培ってきた黒須の乃木を慕う気持ちや信頼が感じられて良かったです。

血走った目で涙を流しながら「俺がお前を殺してやる」と乃木の足にしがみついたり、歯を食いしばって乃木を鋭い視線で睨みつけたり、裏切った乃木への強い怒りや恨み、悔しさが全身から溢れ出ているような凄みのある演技が素晴らしかったです。頭に銃を突き付けられた時の絶叫も、いつまでも耳に残るような迫力がありました。出番は多くないけど、心にグッと迫って来るような印象深い演技でしっかり存在感を示していたと思います。

黒須駿役は松坂桃李さん以外は考えられないくらい、適役！

仲間を射殺する姿を目の当たりにし、自分も撃たれてテントのメンバーに拉致されたのに、それでも「何かの作戦でしょ」と乃木を信じようとする姿が胸を打ちました。乃木の真意を聞いて「ふざけんな」とブチ切れて掴みかかろうとするシーンも、クールな普段の黒須からは想像つかないくらい感情を爆発させていて、乃木への信頼の深さや裏切られた怒り、悔しさ、悲しさなど色んな思いが伝わってきて見応えがありました。

ポーカーフェイスでクールな印象だったけど、太田と二人のシーンでは焦ってイライラしたり、ヒステリーを起こした太田にビビって戸惑っていたり、ちょいちょい見せる人間味のある表情が新鮮で良かったです。太田の見事な腕前を見るうちに表情が徐々に変わっていったり、ハッキングに成功した時も「神様が味方してくれたな」と肩を叩いて労ったり、自分にはない才能を持つ太田へのリスペクトが感じられるところも、黒須の人となりが垣間見れて親近感がわきました。

迷いのない早口気味の口調や余裕を感じさせる佇まいが黒須の頭の回転の速さと有能さを感じさせました。表情ひとつ変えず、躊躇なくアリの仲間たちを射殺する姿も目的のためなら手段を選ばない冷酷さと肝の据わりっぷりを感じさせて良かったと思います。