VIVANT

若き日のノゴーン・ベキの苦難と苦悩を、決して長い出演時間ではないのに、しっかりと感じさせてくれました。林さんが好演すればするほど、ベキの哀しみや苦しみに説得力が増します。とはいっても後のベキの姿にスムーズに繋がるようバランスをとる必要もあります。その点を考えると林さんは見事な芝居をしています。何せ名優役所広司につながる演技ですから、意識しない筈はないし、簡単な筈もありません。さすが演技派らしいファインプレーだと思います。

見ているこちらまで苦しくなるような凄まじく壮絶な演技が素晴らしかったです。ベキが体験した喜びや悲しみ、恐怖、絶望、憎しみを限られた出番で見事に体現していて、圧倒的な存在感を示していたと思います。妻や憂助に向ける温かく穏やかな眼差しや、愛する家族を失って極限状態まで追い込まれ光を失った伏し目、ノコルと出会い守るべき存在が出来た時の力を宿したような強い視線など、目の演技が特に印象的で、言葉以上にベキの想いが伝わってくるところがとても良かったです。

今まではヘリを追いかけるシーンしか出てきませんでしたが、今回は正に林さんの回となりました。若かりしベキの過去を壮絶に演じてくれました。家族を守ろうと必死に逃げたこと、憂助を必死に探して亡くなっていると知ると廃人同然になったこと。鬼気迫る演技で胸をえぐられました。素晴らしかったです。