わたし旦那をシェアしてた

シングルマザー三人のお目付け役であり、殺された恭平の実母という難しい立ち位置を絶妙なお姑感覚で演じた貫禄は正直、他のキャストと段違いだったかも。でも、遺産より子離れできない彼女自身の内面にも問題があったように思えるよ。葬儀を終えて気持ちが切り替わったはず。こちらもスッキリした！

化粧も薄くて服装も地味なのに、毎回登場しただけでその場の空気が変わる存在感の大きさはさすがでした。意味深な表情や相手の心を試すような口調でミステリアスさを醸し出したドラマ中盤までの演技も良かったですが、後半に入ってからの恭平の死の真相を知ろうと必死な様子や息子に先立たれた寂しさ、絶望、苦しみなどが入り乱れた母としての演技が本当に素晴らしかったです。恭平のお葬式での「本当に死んでしまったんですね」という台詞の言い方が特に印象的で、しみじみと穏やかな笑顔で「ああ、これが現実なんだ」とやっと彼の死を受け入れて前を向いていけそうな、悲しいけど明るい希望も感じられる何とも言えない良いお芝居をされていて思わず貰い泣きしてしまいました。

舞台慣れしている演技がセリフまわしによく出てる。入院シーンではしっかりスッピン。これこそプロだと思う。これくらい当たり前にできなきゃリアリティって生まれないよね。後半はカッコよく着飾ったシーンなんか、あるといいなと思います。

「お義母様、お義母様」と急に態度を変えてご機嫌取りをしてくる加奈子たちに苦笑いをしたり、恭平が森の殺害を計画していたと聞いてショックを受けて呆然としたり、恭平を思って泣きながらお酒を飲んだり、コミカルさとシリアスさのバランスが絶妙な演技が好きです。こういうスピーディーな展開のドラマってごちゃっとした印象になりがちですが、夏木さんの緩急豊かな演技力と重みのある存在感のおかげで地に足がついているというか、きちんと芯のあるドラマに仕上がっているところもさすがベテランだなと感じます。

これまでは「天谷恭平」とフルネームで感情が伝わらない淡々とした呼び方だったのに、母親だと名乗り出てからは「恭平」と絞り出すような声で愛しそうに呼んでいるのが切なかったです。恭平のことを語る時に、懐かしいというより辛さや後悔が滲んだ苦しそうな表情を浮かべていたのも印象的で、恭平に対して他人行儀だったのは母親と悟られないためだけでなく、母親失格だと自分を恥じているからなのかなとも感じました。

最初の頃は淡々とした表情と喋り方で感情が全然見えなかったけど、徐々に表情の変化が細かくなってきて「本当にただの家政婦なの？！」と恭平殺しの謎解き以上に気になる存在感とインパクトがさすがです。4話で恭平の好物の卵焼きを食べた時のハッとしたような意味ありげな表情も、ほんの一瞬だったのにとても印象に残りました。恭平について語る時も温かみというか情が滲み出ていて、家政婦と主人以上の関係を想像させます。

絵理に話しかける時は優しげな笑顔と口調なのに、彼女に背を向けた途端サッと冷めた顔に変わるところが印象的でした。笑ってても目が笑っていないし、キッと鋭い眼差しの時も怒りなのか憎しみなのか、それとも何か思案してるのか喜怒哀楽が掴めないところが怖くて観ていてゾッとしました。お腹からしっかり発声していて力強いのに力みのない台詞回しもとても聞きやすくて好きです。

晴美たちの前にいる時は声が少し高めですが、塚本や松田と喋る時は声が低めになって表情も鋭くなるところが染谷のミステリアスさを際立たせていて良かったです。「私にとっては3人とも邪魔」と言う時の冷たい笑顔など、台詞の冷酷さと表情のミスマッチさも良い意味で違和感があって、本心が読めない怖さがあります。

1話目を見た時に夏木マリさんは本当に色々な役になりきれる七変化の女優さんだなと改めて思いました。時には激しい役をされている時もありましたが、役柄の落ち着いた話し方も様になっていてそれもそれで合っていました。夏木さんが出てきただけでドラマが引き締まったように感じます。迫力のある女優さんです。

試すような勿体ぶった口調や意味ありげな表情が晴美たちの反応を楽しんでいるような、手のひらで転がすような余裕を感じさせ、主導権を握っている説得力があります。その場にいるだけでビシッと場面が締まる抜群の存在感もさすがです。

百戦錬磨の舞台女優になった夏木マリをドラマで見られるのはすごく嬉しい。ドライなシェアハウスコンシェルジェを演じているが圧倒的権限を持ち亡くなった天谷を一番深く理解しているかのようだ。もしかしたら天谷の実の母親なのだろうか。