アンチヒーロー

初めてこの方の演技を観ましたが　強烈な萬斎氏(台詞回し表情仕草デフォルメし過ぎ)の役柄に対し　静の位置なのだろうが　力入れ過ぎた台詞回しがあって場にそぐわなかった。
　多分他の役なら役に合った自然な演技する人だろうとは感じた。

自身の第二回公判で伊達原を追い詰めるシーン、グッと世界観に引き込まれる迫力があって素晴らしかったです。逆襲に入る直前のニヤっとした笑みが「くるぞ、くるぞ」という期待感を高まらせ、そこからほぼ喋りっぱなしの長台詞も緩急自在な語り口と滑舌の良さで全く中だるみすることなくしっかり魅せてくれて、非常に見応えのある場面になっていたと思います。

明墨は基本的に表情が豊かなキャラではありません。けれどちゃんと微笑みにも多様な表情があって、凄みや蔑み、威嚇、不敵、哀しみ、優しさなど、たくさんの感情が伝わってきます。脚本をしっかり読み込み、明墨の感情の動きを理解しているからこそ出来る演技です。最後の伊達原を演じる野村萬斎さんとのバトルは、本当に見ごたえがありました。ただ怒鳴り合うのではなく、強弱のあるせりふの応酬。二人の立場が徐々に逆転して行く様はさすがでした。

難しい役なのに、こちらに響く演技力で毎回画面に引き付けられる。シニアが見るドラマが少ないので完結すると淋しい。

相手を挑発して喋りまくる強気な姿も毎回迫力があって素晴らしいけど、台詞が無い芝居もすごく見応えがあります。特に今回の百瀬の日記や手紙を読んでいる時の潤んだ眼差しや、一文字一文字大切そうに目を通す時の切なげな表情、彼女の日記に残る涙の跡をそっとなぞる姿など、その表情や仕草から志半ばで散った仲間への思慕や彼女の意志を引き継ぐ強い覚悟が感じ取れたのがとても良かったです。多くは語らなくてもしっかりと深い思いが伝わってきてグッとくるものがありました。

紗耶に自分の罪を告白するシーン、時折震えそうになる声やポロポロ涙をこぼして「申し訳なかった」と苦し気に謝る姿が印象的で、本当に心の底から自分の過ちを後悔している自責の念と、紗耶と志水のためなら何でもやるという強い覚悟が伝わってきました。江越の件で伊達原に出し抜かれた時の口元が引き攣ったような表情や、事務所で煽りを受けた後、花束を握りしめながら宙を睨む鋭い視線など、普段の余裕たっぷりな様子とは違う、感情的な姿が多く見られたのも新鮮で良かったです。

他の場面と志水を前にした時の雰囲気とかがまるで別人で。この人のためにすべてを捧げているんだなと思う。12年前は検事だったのだろうし、この事件に関わっていて大きく後悔しているのだろう。小手先でなく説得している姿が迫力あったと思う。

瀬古とのシーンも志水とのシーンも、照明が暗くて部屋には二人しかいない、景色が変わることもなくほぼ明墨が喋りっぱなしという誤魔化しが利かない状況だったけど、どちらも全く飽きさせることなくしっかり場面を持たせていたのがさすがだなと思いました。台詞の緩急や間、声音の使い分けが絶妙で、滑舌が良くて聞き取りやすいけど変な堅さや機械的な感じがないところも良かった。「あなたを無罪にする」という言葉はこれまで色んな人に言ってきたけど、志水に向けたそれは普段見せるような余裕が一切なく、切実に訴えるような必死さが滲み出ていて、志水の事件に対する思い入れの強さや後悔の深さを感じさせたのも良かったと思います。

瀬古が証拠を採用しないことを確信していたような、余裕のある態度と微かな笑みが印象的でした。相手より何歩も先を読んで手を打つ用意周到さ、賢さ、狡猾さを何度も目の当たりにしているから、不利な立場になっても全然不安じゃないし、そのドンと構えた立ち居振る舞いが単なるハッタリに見えないところも凄いなと思います。紗耶やミルに見せる優しく穏やかな笑顔も、普段の挑発的な笑みとギャップがあり、明墨の元来持つ優しさを感じさせて良いですね。

あの何もかも見透かしたような嫌味な笑顔がものすごく良い。恐ろしくも見えるし、バカにされているようにも見える。見る者の心でどうにでも見えると思う。

伊達原と対峙するシーン、ピンと張り詰めた空気と緊張感のあるやりとりが迫力あって見応えがありました。いつもポーカーフェイスで余裕のある佇まいだけど、志水の名前を出された時だけピクっと顔の一部が一瞬動いたり、だんまりを決め込んで無表情のままやり過ごしたりと心が動いているのが感じられて、志水の事件が明墨にとってどれだけ重要で重いものなのかが伝わってくるところも良かったと思います。

絵里に事情を聞く時の嘘を見透かすような態度や探りを入れるような話し方が、何かを隠してる人にとって相当嫌な感じだろうなあって思える威圧感があって良かったです。ただ立っているだけでも表情や歩き方に凄みや含みが感じられて、すれ違った倉田が思わず振り返ってしまう説得力があったのも良かったです。

思い込みと薄っぺらい正義感で動く赤峰に「君がやってることは犯罪者と変わらない」「松坂の件は君のせいだ」と指摘するシーン、手厳しい言葉だけどただ叱責しているのとは違う、赤峰を焚きつけるような、どこか彼に期待しているような空気を感じさせたのが良かったと思います。富田が買収に走るよう言葉巧みに操る時のニヤっとした企み顔や「依頼人に嘘をつかれた弁護人」を装う時の大袈裟な芝居も、明墨の策士っぷりが感じられて良かったです。

終盤の公判シーン、見応えがありました。姫野や教授をわざとイラつかせるような挑発的な笑みや態度、裁判員や判事の心情まで操るような熱い語り口、長台詞を飽きさせない巧みな台詞まわし、舞台を観ているような感覚に陥る見事な演技が素晴らしかったです。赤峰に正義について問う意味深な表情や墓前で涙する姿など、裁判で見せる強気な態度とは違う明墨の別の顔が垣間見れたのも、彼の過去に何があったのか、好奇心を掻き立てられて良かったと思います。

いつになく暗い表情をたたえいろいろな過去を持っているんだろうなという雰囲気はいい。そして長ゼリフを完璧にマスターしている様子もプロとしてとてもいい。ひとつだけ気になるのが喋り方の癖。語尾が伸びるのがとても気になる。

冒頭の被告人とのやりとり、緩急自在な台詞回しでグッとドラマの世界に引き込まれました。滑舌が良くて言葉一つ一つが聞きやすいところも良かったし、普通の人の役よりもこういう癖の強いキャラが似合う人だなって改めて感じました。検察を挑発するような笑みや「実に見事な供述でした」という嫌味たっぷりな口調、被害者の妻との言葉巧みなやりとりなど、具体的な説明がなくても、明墨の人柄や仕事ぶりがしっかり伝わってくるところも良かったです。