リバーサルオーケストラ

演奏時間の変更を聞き入れない本宮に「お客様をお待たせするのか」とガツンと意見するシーンがスカッとしました。玉響の助太刀っていう意味でも頼もしかったし、演奏を楽しみにしているお客様のことにしっかり言及するところも一流奏者としてのプライドが感じられて、光太郎の器の大きさと併せてめちゃくちゃ格好良い場面だったと思います。

このドラマで一番の天才は間違いなく、この人の父親です。彰一郎も十分に才能豊かだけど、天才の子どもというのはなかなかにキツい。それが初音に対する子供じみた嫉妬という形で吹き出していた。そこがこのキャラクターの本質だと思う。なので初音の良い演奏を聴いたからといって、態度がころりと変わったのは、並みの演奏ではなく、天才が天才に感嘆する、つまり父親がかつて初音に抱いたのと同じ気持ちになったからだと解釈すべきなのでしょう。だから彰一郎にも、天才らしいきらめきを演出すべきだったし、演じるべきだったと個人的には思う。演出家の能力不足が一番だけど、彼の初音に対する態度が唐突な変化に見えるままで演じてしまっているので、役者側にももう一歩踏み込むものが欲しかった気がします。

玉響が解散の危機だと知り、「父は指揮を降りると言いかねない」と高階会長に忠告するシーンが格好良かったです。初音のアドバイス通り、オケメンバーと積極的にコミュニケーションを取るところも三島の素直さが感じられました。評論家の批評にナーバスになったり、父親に演奏の感想を求めたり、随所で「認められたい」という焦りや不安が滲み出ている姿も、人気奏者ゆえのプレッシャーや父親への拗らせた感情が伝わってきて良かったと思います。

初音にオケとの距離について弱音を吐いたり、他愛もない話で笑い合ったり、すっかり和解して気心の知れた幼馴染同士という関係に戻っている姿が微笑ましかったです。きっとこれまで色々拗らせて自分を追い込んで、ストイックに孤独に音楽に取り組んできて、こういう仲間との時間を持ってこなかったんだろうなと、初音との和解で三島自身も良い方向に気持ちが吹っ切れたことが感じられたのが良かったです。いちごオレとホットチョコで迷ってる姿も子供もみたいで可愛らしかったです。

初音とはもっともっとライバルとしてピリピリした関係になるのかと思っていましたがキャラ変したの？ってぐらいデレちゃってるのが気になります。みんなが初音を好きでみんながチヤホヤする状況では緩すぎる。期待はずれでした。

７話終盤までとにかく初音を追い詰めて煽って、顔見るのも嫌ってくらいヒールに徹してたけど、初音のチャイコンを聴いて徐々に表情が明るくなっていって演奏後に目を潤ませて笑顔で拍手を送る姿を見て不覚にもグッときてしまいました。嫉妬や苛立ちでかなり拗らせているけど、良い音楽は良いと素直に受け入れて賛辞を送れるところが本当に音楽を愛している人間なんだと感じられたし、本音を語り合って初音と和解したあとのすっきりと晴れやかな表情も良かったです。

回を追うごとに初音への敵意があらかさまになってきて、そのジトっとした陰湿さや執念深さが、良い人揃いでほのぼのした玉響メンバーと良い対比になっています。会見でのしらじらしい誉め言葉や、何か企んでいるような含みのある表情、険しい顔で一心不乱に練習に励む姿、画面に登場するたびに不穏な空気をまき散らしていて、ドラマの良いアクセントになっていたと思います。

父親の自分への無関心ぶりを実感するたびに表情が曇り、寂しさや苛立ちを募らせている様子が伝わってきました。父親に認めてもらいたい、褒めて欲しいって気持ちが溢れていて、初音の話ばかりする父親への不満や初音に対する強い嫉妬が感じられたのも良かったです。世界的な成功を収めているけど、内面が子供の頃から成長出来ていない未熟でアンバランスな感じが、今後の波乱を予期させるところも良かったと思います。

再会した初音に「一人じゃ無理だもんな」と囁くシーン、単なる嫌味ではなく、相手の心の傷を抉るような悪意と棘が感じられてゾクっとしました。練習中の苛立ったような表情やイマイチ集中しきれていない様子も、内心の動揺を感じさせて良かったです。「引退状態だった彼女と一緒にしないでいただきたい」という言葉も、自分自身に言い聞かせて平常心を保とうとしているように聞こえて、それが三島の焦りや不安をより印象付けているところも良かったと思います。

初音が復活すると訊いた時の強張った表情や動揺を隠すような様子が印象的でした。単なる幼馴染のライバルというだけではなさそうな雰囲気が漂っていて、今後の波乱を思わせました。演奏会後に初音をハグするシーンも「復帰おめでとう」という言葉がどこか含みがあるというか、わざとらしくて良い感情が全く感じられないところが上手いなと感じました。少ない出番だけど、初音に対する複雑な感情をしっかり滲ませていてインパクトがありました。

マスコミへの丁寧な対応や紳士的な振る舞い、ファンの歓声を当然のように受け入れる余裕たっぷりな態度が三島の自信を感じさせました。演奏シーンはなくても、世界的に活躍する有名バイオリニストという説得力があったのが良かったです。完璧過ぎてちょっと鼻につくというか、ほんの少しだけ嫌味な雰囲気が滲んでるところも上手いなと思いました。