笑うマトリョーシカ

「お父さんの背中を追って同じ道を進むなんて嬉しかったろうね」と微笑みながら兼高の写真を撫でるシーンがとても良かったです。懐かしむような優しい笑顔と穏やかな口調が印象的で、夫婦関係は終わってしまったけど、家族としての愛情は今も心の中にあるんだなあと感じられて、短いシーンだったけど心がホワっとして温かな気持ちになりました。

勇気の面倒をみたり、香苗が迷ったときは力強く背中を押したり、兼高そっくりで根っからのジャーナリストである娘のことを誰よりも理解してサポートする姿を何度も見てきたから、あの宝物のスクラップブックの存在が唐突なものに感じず、香織ならやりそうだなって説得力があったのが良かったです。健太郎の快気祝いで久々に家族３人が揃った時に、変な期待や余計なお膳立ての気配を一切感じさせないところも素敵だなと思いました。

落ち着いたらまた３人で暮らそうと思っていると香苗から聞いた時の反応が良かった。否定も肯定もせず、その決意をただ微笑んで受け止める姿が、香苗を信頼して意志を尊重するという母の愛を感じさせました。帰宅した香苗と勇気をすぐに２人きりにしてあげるシーンも、サポートはするけど過剰に干渉しないようにという香織の気遣いや弁えが感じられて良かったと思います。

勇気のことで香苗に小言を言いつつ、「あんたは頑張ってる」「私が一番よく分かってる」と労い寄り添う姿が、香苗の母として、勇気の祖母として、家族を大切に思って見守る香織の深い愛情を感じさせてグッときました。勇気が来た時に嬉しそうにハグをしたり、大好物を張り切って作ったり、美味しそうに食べる姿をニコニコ見つめたり、目尻を下げて孫を溺愛する優しいおばあちゃんの顔もとても良かったです。

凜々に香苗と似ていると言われて「こんなガサツじゃない」とムキになって否定する姿や、子供みたいに香苗と言い合いをする姿がチャーミングでした。サバサバした話し方やカラっと明るい空気感が香苗役の水川さんに通じるものがあり、「どこからどう見ても親子」という凜々の台詞に説得力が感じられたのも良かったと思います。

仕事も息子のことも諦めるつもりはないと宣言する香苗に、「やるからにはやってやんな」と力強く背中を叩いてエールを送るシーンがとても良かった。心配で色々と小言を言ったり怒ったりしたこともあったけど、娘を信じて応援するって腹を括ったんだろうなと香苗への信頼が感じられたのも良かったし、エールと一緒におにぎりを置いていくところも、娘の身体を気遣う母の愛が伝わってきてグッとくるものがありました。

息子と電話中の香苗に声をかける山中に「邪魔しないであげて」と注意したり、仕事しながら香苗の様子を窺って一緒になって笑顔になったりホッと安心した表情になったり、母として祖母として、娘と孫を心配して見守る姿がとても良かったです。出番は多くないけどいつも家族への深い愛情を感じさせてくれて、ヒリつく場面が多いドラマだけど、香織さんが出てくるとハラハラした気持ちがホッと落ち着きます。

仕事のことも息子とのことも、耳が痛くなるような話をお小言のように遠慮なくしっかり指摘する姿に母の愛を感じます。兼髙と香苗がよく似ているって分かってるからこそ心配で仕方ないんだろうなあって伝わってくる。1話の時もそうだったけど、今回も「うどんで良い？」とどんなに大変な状況に陥っていてもまず食事をとることを勧める姿が、実家の温かさ、有難さを実感させてくれるところも良いなと思います。

兼髙の遺体と対面した時の茫然とした表情や虚ろな眼差しが印象的でした。泣き崩れるわけでもなく、ただじっと現実と向き合う姿が、離婚して当然愛情は昔より薄れているだろうけど、完全に情は捨てきれていない何とも言えない絶妙な距離感が伝わってきてとても良かったです。「おかえり、出戻り」とか「一緒に食べよ」など短くて何でもないやりとりでも、香苗への愛情や母親らしい温かみが感じられるところもさすがです。