あのときキスしておけば

旦那の田中マサオとの仲がすっかり冷めきっていた妻が、中身が蟹釜先生に入れ替わったことで、もう一度恋をしたような雰囲気になったのが、意外と良かった。もともと外見は好みで、中身が女性の気持ちがよくわかる男前になったら、そりゃキュンとするよね。

一見すると、いかにも口うるさそうで文句ばっかり言ってる主婦って印象なんだけど、実際に話してみるとなかなか聡明な人って感じかな。夫の食事は準備しないなど、やってることはヒドイけど、愛情が完全になくなったわけじゃないようだから、口もきかずに陰気に暮らすくらいなら無理やりにでも夫と話してみればいいのに。でも帆奈美なら、もし離婚したとしても彼女一人で子供を養って、立派に生活していける逞しさがありそう。

心を閉ざしつつも、オジ巴の優しさにときめいてしまったり、情が湧いて食事を分けてあげたり、まだ旦那さんを愛していることが伝わってきて、事故の現実を思うととても切なくなりますね。旦那さんの心が沖縄の海に…という話を聞いた時の「もう戻ってこないんだ」という悲しげな表情も胸が痛くなりました。オジ巴の正体を知っているのが桃地に高見沢と男性ばかりなので、女同士で語り合える良き相談相手が出来て心強いです。

いなくなったマサオさんの奥さんの切なさが伝わってくる演技でした。いなくなる前から夫婦の関係にきっと悩んでいたんでしょうね。もっとお互いの気持ちを話しておけば、つらい別れにならなかったのかもしれません。またマサオさんにちゃんと会えるといいですが…。

長く家庭内別居みたいな状況だったとしても、食事の支度も自分と息子の分しかしないって、なんか哀しい感じ。夫に対して何の期待もしないどころか諦めきってた様子だから、マサオの身体の中身は巴だと言われても、案外衝撃はあまりなく受け入れられそうかな。

それにしてもこの人は、険のある表情作りが上手いというか、心の中に抱えてる葛藤を目や顔つきで表現するのが上手い。

眉間にしわを寄せて、軽蔑した眼差しと迫力のある低音ボイスは圧巻で、惹き込まれました。脇役でありながら、その存在感はすごかったです。あと、主婦や母親という設定がしっくりくる歳になったんだなぁと思いました。