俺の家の話

ワガママ放題でイライラすることもありましたが、なんだかんだで息子のことを考えていることが伝わってきました。やはり長男という存在は特別なんでしょうね。寿一の亡霊と話をするシーンは泣けました。迫真の演技だったと思います。

最終回は涙、涙でもう大変でした。自分が介護される側で心配される側で大切にされることも慣れていた頃、不死身だと思っていた最愛の息子が死んでしまうなんて。弔辞を読むどころか自分がどこにいるかも分からなくなってしまったあの顔が、全てを語っていた。悲しいとか悔しいなんて言葉や感情は少し整理できないと湧かない感情なんだよね。さすが名俳優！

なんだろうね、もう見てるだけで涙が出てくる。西田さんの言っちゃ悪いけどだらしない体と底抜けの明るさ大きさにやられています。誰よりも死ぬことが怖くて誰よりも体がうまく動かないことが歯痒いからこその情緒不安定を無邪気に演じている。はーすごいなしか出てこない。

車いすのスピードや走り方で、感情を伝える演技ができるのがすごすぎます。日々ころころと病状が変化していく要介護の患者さんを演じるのは難しいだけでなく、精神的な負担もあるんじゃないかと思うのですが、楽しそうに生きているおじいちゃんの姿にこちらが元気をもらっています。

人間国宝の貫禄を持ちながら、家庭ではわがままで腹の立つジジイですが、痴呆症を患っている深刻な状況で切なくなりました。体が不自由になってから、明るくお茶目なジジイになって人が違うようになって面白かったです！家族をかき回しながらも愛されて介護され羨ましいです。

ベテラン俳優としての貫禄があり、真面目なシーンも面白いシーンもとことん上手いと思います。
中でも介護を受けるお風呂のシーンは毎回可愛らしく、シャンプーハットをつけたり、ひよこのおもちゃを持ったりしている所がほっこりしました。
ちょっと駄々をこねるシーンは面白い中にもお年寄り感が出ていて、現実的な雰囲気がありました。
ちょっと涙をそそるシーンもうまく表現されていてさすがだなと思いました。

笑いあり、涙ありの演技に関しては、今の芸能界において、この人の右に出る人は居ないということを再確認できました。名家の宗家としての威厳と、肉体が衰え、認知症が少しずつ進行する悲哀を、絶妙のバランスで演じているので、物語に引き込まれてしまいます。

演技どうこうの問題じゃないが、本当の認知症はこんなコミカルじゃなくてもっと悲惨なものでしょうに。

せっかく娘が選んでくれたシルバーカーをこんなの使わねーよと一刀両断したり憎たらしいところもあるけど、数日後あれ使おうかなと悪気もなく言ってみたり。老いた親ってこうだよなとクスッとさせられる。挙句にはシルバーカーを押しながら人間国宝笑われに行ってきますと来た。さすがとしか言いようがない。

芸能界の重鎮が、舞台となる能の世界の重鎮を描いていますね。
とはいえ、やはりどの世界にも世代交代というのは避けられないもので、退く身の寂しさがあると思います。
けしてカッコイイばかりではない、いつまでも頼ってばかりはいられないという家庭の父の姿に、実父を思い出さされました。

お風呂場でチキショーっておもちゃを投げるシーンが大好きです。自分の体なのに思うようにならない、こんなはずじゃなかったって思うことたくさんある中で塞ぎ込む方が多いと思うけど、ああいうふうに気持ちを吐き出してくれるとお世話する方も楽だよね。しぐさが可愛らしくて好き。

本当に認知が始まってるのか、そんなフリをしてるだけなのか、なんともとぼけた表情と言動で周囲を惑わせるあたり、本当に演技がうまいなあと感心してしまう。婚約相手のさくらのほうは遺産目当ての計算もあるみたいだけど、大してお金も名誉もなかったとしても、寿三郎さんはなかなか魅力的。

いくつになっても老いぼれることなく、その歳に合う「コミカルなおじさま役」が日本一、似合う俳優さんだと思う。あんなチャーミングな演技ができ、それも大袈裟感なく、とても自然に入ってくるので、流石大御所といった印象です。介護士との失恋のショックも、認知症ですぐ忘れまた、さくらちゃ?ん！と甘える辺りも見ていて微笑ましく思えます。

老いていく父としての演技が素晴らしいです。最初はえらそうであまりいい印象を持ちませんでしたが、なんだかんだで年を取って弱気になっているんだなと思いました。さくらちゃんにふられてもそれを忘れてしまうところはかわいかったです。

あまり長時間立っていられなくなったんだろうということはなんとなく知っていたのですが、その立場にありながら「下半身まひで初期痴ほう症」を演じるその俳優魂がすごすぎました。能楽師にしか見えない立ち振る舞いも見事です。