フェルマーの料理

海に本音を語るシーン、見応えがありました。特に海を心配していたことを自覚した後の慈しむような優しい眼差しや、「お前の料理が大好きだ」「美味しかった」と誇らしげに語る姿が、父親のような温かさと愛情に溢れていてグッときてしまいました。岳に海を託すシーンで見せた、親の務めを終えた寂しさやホッとした気持ちが入り混じった笑顔も切なくて印象深かったし、最後に渋谷の人間味溢れる姿が多く見られて良かったと思います。

「岳は俺の最高傑作だ」と語る時の狂気を孕んだ眼差しが、孤高という呪いに囚われた渋谷の歪んだ岳への愛情を感じさせてゾッとしました。「海はもう料理をする必要がない」という言葉も、病気で完璧を目指せない海の姿を目の当たりにしたくない、それなら料理自体しなくて良いという渋谷の恐れや傲慢さを感じさせ、ラスボスに相応しい複雑さや厄介さを際立たせていたのも良かったと思います。

その筋では神な存在なんだろうけど、いつも暗い顔でボソボソしゃべっているだけな印象。孤高な人なんだろうし弟子には厳しいんだろうけど、あんなつまらなそうな顔で作る料理って美味しいのだろうかと思ってしまう。

海のスープを口にした時の目を見張った表情、まじまじと海の顔を見つめる強い視線、称賛の言葉はなくても並外れた海の才能がしっかり伝わってくるところが良かったです。厨房で一切子供扱いしないところも、「孤高」を極めて一人前のプロに育て上げるという強い意志が感じられました。出資する代わりに「俺を遠ざけるな」と条件を突き付ける姿も、最後まで海の夢を見届けようという渋谷の覚悟と師弟愛を感じさせて良かったと思います。

倒れた海に「お前はもう料理は出来ない」とはっきり告げたり、無理に起き上がろうとする海を窘めたり、敢えて厳しい現実を見せようとする姿が、本気で海を心配する気持ちを感じさせました。諭すような厳しくも温かい口調が、二人の師弟関係を思わせるところも良かったです。

「やっと会えたな」と岳を出迎える時の興味深そうで、何処か楽しげな表情が印象的でした。幼く頼りない岳を見ても訝しむこともなく、「ようこそこちら側へ」と快く受け入れる姿が、渋谷の器の大きさや彼の才能を買っている海への信頼の深さを感じさせるところも良かったと思います。

西門からKの買収話を聞いた時の鋭い視線、その後朝倉を訪ねる時の距離の近さを感じさせる空気、感情のない淡々とした口調、敵なのか味方なのか分からないどちらとも取れそうな演技に毎回翻弄されています。色々思惑があるのは西門も同じだけど、小者全開の薄っぺらい西門とは違い、中身がぎっしり詰まっている感じがするというか、この人なら絶対に成功するだろうなというどっしりとした人間の重みや信頼が感じられるところもさすがだなと感じます。

若手の演者が多い中、登場するだけで場の空気がピリっと締まる存在感はさすが。岳と密会を重ねているけど、どうも友好的な感じではなく何処か不穏さを感じさせる雰囲気も緊張感が高まって良いですね。いつもラストに少し登場するだけで出番がかなり少ないうえに、見た目のインパクトが強すぎる淡島が一緒だけど、それに全然負けておらず、毎回印象に残るところも凄いなと思います。