新宿野戦病院

セリフまわし、表情、身体表現、どれも見事な表現力で演じていると思います。特に顔だけの芝居が多い役者が増えている中、身体表現という部分ではなかなか見物だったと思います。脚本に引っ張られた部分はあるにせよ、さすが年齢のわりに場数を踏んでいるなと感じます。もちろんただ経験だけではない、感性とか努力に裏打ちされたものでしょう。この享という役は現代っぽい諦めと良くも悪くもロマンチストな面を持っています。それは岡本や舞とは違う育ちの良さがあり、それも舞が彼を好きにならなかった一因でもあると思います。ただヨーコと出会って、諦めが悪くなって、むしろ格好良くなりました。そんな成長が見える良い演技だったと思います。

舞のことで八つ当たり気味に絡んだり、風俗王を交えた3人のやりとりだったり、岡本との息のあったコミカルな芝居が楽しい。笑わせようっていう変な力みや計算が見えないところも上手いなと思います。ヨウコが連行された時の「頑張らないとですね」という静かだけど強い覚悟を感じさせる声音や表情も良かったし、反社の患者さんに胸ぐら掴まれて取り乱して怯える姿も面白くて、シリアスさと笑いの塩梅が絶妙な演技がとても良かったと思います。

誰だって病気になるし感染経路なんて普段の風邪なら考えたことないよね。なのに誤ってしまう。なんに対してなのか分からなくなるほど麻痺して誤っちゃうところが1番コロナ禍を思い出しました。ただその後のキスはテンション上がりすぎて意味分からなかったけどね。

ヨウコにキスした後の謎の言い訳連発や、しどろもどろっぷり、張り付いたようなニヤけた顔が絶妙に気持ち悪くて良かった。どんな感情だとあの顔になるんだろう、何であんな表現が出来るんだろうって観るたびにその上手さに感心します。感染した父を懸命に看病する姿や、エクモが確保できたと連絡が来た時の泣き崩れる姿も、父を思う息子の熱い気持ちが伝わってきてグッときてしまいました。

涼香の話をすぐ自分の話にすり替えて不幸っぷりをアピールする大人げなさ、しかもそれを全く無意識にやってる感じが自分が一番可愛いお坊ちゃんの享らしくて良かったです。病院内とは思えない大声で叫んで号泣する姿や、涼香に「頑張ろ」って励まされた時のグッときてる表情など、喋ってても黙っててもコミカルな演技がホント面白くて上手いし、見せ場のシーンも独りよがりにならずに、マユや涼香とのやりとりもテンポ良くしっかり魅せてくれるバランスの良さも凄いなって思います。

ホント役者さんってすごいなと思ってしまう。優三さんのカケラすらない。この軽い感じはなんなんだ。ついこの間まで朝、誠実で優しさの塊のような人だったのに…どちらもしっくり馴染んでいるからすごいとしか言いようがない。

コンカフェでノリノリではしゃいだり、荒れる白木に「スマホを落としただけなのに」と怯えたりというコミカルなシーンと、真剣な表情でトリアージをしてヨウコをサポートする頼もしい医師の顔のギャップが良いですね。おふざけシーンを全力でやってくれるから、シリアスな芝居がより引き立って、医師という仕事に真摯に向き合う姿がさらに格好良く見える。ただテンションが高くて煩いっていうのとは違う、緩急自在なメリハリのある演技が見応えあって上手いなと感じます。

岡本と舞のデートを知って嘆いていたかと思えば開き直って大きな態度で2人の間に割り込んでくる。亨の諦めの悪さに笑ってしまいます。大賀さんは身のこなしが軽やかで3枚目が似合いますね。気合いを入れるほど滑って面白いです。

岡本と舞の関係を知ってブチ切れるシーンが面白かったです。目を真ん丸に見開いて怒鳴り散らして、めちゃくちゃ怒ってるんだけどコミカルさ全開だから見ていて不快な気持ちにならないし、一人だけすごいテンションで大騒ぎしてるのに変な力みや空回り感がなくて、シラっとせずしっかり場がもつところも凄いなと思います。

父親とヨウコのSMプレイを舞と観察するシーン、ほぼ「親父」しか言ってなかったけど、呆れたようだったり、悔む姿に心を寄せるようだったり、母への深い愛を知って感慨深げだったり、バリエーション豊かな「親父」が聞けたのがとても良かった。同じ台詞、しかも「おやじ」のたった3文字なのに、あんなに色んな感情が乗せられるのが本当に凄い。だいぶカオスでコミカルなシーンだったけど、それだけでは終わらせない表現力の高さがさすがだなと思いました。

勝手に蛙化現象を起こして、付き合ってもいないのに舞を過去の女扱いする姿が絶妙に気持ち悪くて、その勘違い野郎特有の語り口や表情がすごく上手くてイラっとさせられました。ヨウコを好きになったきっかけが中学生男子みたいにしょうもないのも享らしいし、かと思えばヨウコと二人きりの練習では意外なほど真剣な表情を見せて本気で取り組んでいたり、三枚目な顔だけでなく医師としての意識の変化が見られたのも良かったと思います。

自分は美容整形の医師だしと無駄にチャラチャラしていたけど、ヨウコに出会って医師と認められた今心から尊敬してもっと立派な医師になりたいと努力しているように見える。ヨウコの技術を盗み、役に立とうと処置の現場ではいつも真剣。オフの緩さも人間っぽくていい。

患者を助けることに夢中で血を見ても倒れなかったり、「ビビってる場合じゃねえし」と呟いて気合を入れ直したり、絶対に助けるんだという医者としての責任感や使命感が滲み出ていて、初めて享のことを格好良いなって思えました。享のコミカルでちょいクズなキャラを毎回体当たりで演じているからこそ、こういうギャップのある一面がより印象深く映えるし、そういう決め所をしっかり魅せるのもさすがだなと思います。

冒頭の告白の練習やらカウンセリングやら、失礼発言連発で相変わらずクズでチャラいんだけど、「美容皮膚科医には出来ないことが多すぎる」「命に関わらない」と自分の立場に後ろめたさやもどかしさを抱いたり、落ち込んだり、享なりの医師としての葛藤や真面目な一面が垣間見れたのが新鮮で良かったです。ホテル前で舞に誤解された時の「違う、違う」連呼シーンや、美容クリニックが繁盛して調子乗りまくりな姿など、表情豊かで緩急自在なコミカル演技もとても良かったです。

舞の裏の顔を知らないまま、すっかり夢中になって「俺なら舞を幸せに出来る」とか言って自分の女気取りで浮かれてる姿がアホっぽくて良かった。アホっぽいけど頭の悪い人には決して見せないところも上手い。ボランティアを手伝っている時の嘘くさい笑顔とか「全く興味ありません」って顔に出まくってるところも、舞がいる時はよそ行きの気取った声音になるところも、享のチャラさ全開で良かったと思います。

小池さんのインパクトの強さや周りの演者さんたちのキャラの濃さに押されるかと思いきや、顔芸並みの大きな芝居とテンションの高さ、コミカルさで主役としての存在感をしっかり示していたのがとても良かったです。受けの芝居が本当に上手いし会話中の間とか表情が絶妙で面白い。クドカン作品らしい会話劇が続くけど、声が良いし、滑舌もはっきりしていて聞きやすいし、声を張っても抑えても台詞が流れていかずしっかり耳に残るところも良いなと思いました。