笑うマトリョーシカ

高岡さんは素で存在感自体が「悪女」っぽい。浩子が「悪女」かどうかといえば、生い立ちなどを考えると同情すべき点もあるし、そう断言しきれないところがあるけれど、ドラマとして最後まで「ハヌッセン」候補として、黒幕らしさを見せる必要がある。その点、高岡さんは見事に演じ切っていたと思います。ただ芝居がうまいというより、キャスティングがうまかったという感じがします。本来ならば黒幕候補ならば、もっと策士らしさが必要だったと思う。浩子はただ清家の後ろに隠れているだけ。鈴木といまだに深い関係出ない限り、策士らしさが感じられないとハヌッセン候補として説得力が弱いと思うので。それらも含めてプラス点の方が多かったかな。

清家に決別を突き付けられるシーン、台詞はなかったけど茫然とした眼差しやそのまま後ろに倒れてしまいそうな力の抜けた姿が、浩子の受けた衝撃とショックの大きさを物語っていて印象に残りました。あの反応が清家のサイコっぷりと、相手に見くびられることへの強い怒りを際立たせていたのも良かったと思います。

亜里沙の話を聞いた後の何処か遠い目をした何とも言えない表情が印象的でした。亜里沙への怒りではなく、一郎にずっと欺かれていたことや、彼を何も分かっていなかったことへのショックの方が強く感じられたのも、浩子の中でいかに一郎の存在が大きくてかけがえのないものかが伝わってきて切なかったです。涙を流して「彼を助けてあげて」と道上に頼む姿も、これまでの不気味でミステリアスな雰囲気とは別人のような、息子を想う母の慈愛に満ちていてグッとくるものがありました。

男たちが勝手に好きになり狂っていくみたいなセリフを言ってもサマになるのは高岡さんだからだと思う。色気がすごいし目線が色っぽい。だけどいやらしい感じがしないのもすごい。あくまで向こうから寄ってくる設定が生きている。

道上に過去を語るシーンの何処か他人事のような口調や微笑みが、他人も自分もコントロールするという浩子らしさがあって良かった。艶やかで美しくて、もっと深く知りたいと思わせるミステリアスさもあって、男たちが勝手に溺れて夢中になっていくという台詞に説得力があったのもさすが。BG株事件について道上に問い詰められた時の意味深な表情も、どういう感情の顔なのか判断がつかない絶妙さで印象深かったです。

道上と対峙するシーン、勇気や過去のことを調べ上げてチクチクと攻撃する陰湿さと、暗に脅しをかけるような口調や表情が怖かったです。「いざという時に後悔しても遅いわよ」という台詞も相手の心をざわつかせて不安にさせるような冷たさと凄みがあって、道上が思わず息子に電話をかけて無事を確認してしまう説得力がありました。口元を少し歪ませる張り付いたような独特な笑みも、浩子の感情の読めなさや不気味さをより強く印象付けていて良かったです。

命拾いした道上に「危なかったわね」と微笑みながら声をかける姿にゾッとしました。声に体温を感じないというか、何処までも冷たくて不気味さが漂うところも、美しくて優雅な見た目とギャップがあって余計に怖さが増します。ただ微笑んでいるだけなのに、たった今道上の身に起きたことは警告だと言わんばかりの脅しめいた圧も感じさせ、あの強く逞しい道上が言葉を失う説得力があったのも良かったです。

清家の演説中に鈴木と目が合い、ニヤっと笑う姿が良かった。勝ち誇ったような、得意げで相手をちょっと小馬鹿にしたような嫌な微笑みで、「一郎君を支配しているのは私」という優越感が滲み出ているようで、短いシーンでしたがとても印象に残りました。両足をきちんと揃えてタクシーに乗り込む姿や、食事をする時のピンと伸びた美しい姿勢など、やってることのエグさと優雅で上品な立ち居振舞いのギャップも、浩子の得体の知れない不気味な雰囲気を際立たせていて良かったです。

思い通りに事が進んでいる時に見せる、少し歪んだニヤリとした笑みが不気味。ただ喜んでいるのとは違う、何処か違和感を覚える微笑みで、それが浩子の不穏さやミステリアスさを際立たせているのが良いですね。鈴木から美和子が行方不明だと報告された時の、感情の読めないガラス玉みたいな眼差しや、「良かった、いなくなってくれて」と微笑むシーンも、背筋がヒヤっとするような怖さがあって印象的でした。

美恵子のことで腹立たしい気持ちを持っているのは浩子なのにその気持ちを微塵も出さず鈴木を使ってなんとかしようとしているところが女って怖いなと思いました。涼しい顔でやり合う食卓のシーンは見ているこちらをヒリヒリさせました。

何度も口にする「大丈夫、大丈夫」という言葉が、相手を暗示にかけてるような独特な雰囲気があって、清家を操っているのは浩子なのでは？という急展開に説得力があったのが良かったです。学生時代の鈴木との色香漂うやりとりや、美和子の煽りを平然とやり過ごすスンとした表情、「母と子の絆は何よりも強い」と道上に語る時の含みのある意味深な口調など、多くはない出番の中で浩子の何を考えているか分からない怪しさと不気味さ、妖艶な美しさを強く印象づける演技もさすがだなと感じました。

片頬を歪めたようなニヤっとした微笑みや、武智の名前を出す時の含みのある口調、佐々木に清家の様子を報告させている姿、ラストにちらっと登場しただけなのに情報量が多くてとても印象に残りました。あの短い出番で怪しくミステリアスな雰囲気をしっかり醸し出して強烈な存在感を残すところもさすがです。

1話では電話だけ、2話でもワンシーンだけでしたが十分なインパクトがありました。背筋をスッと伸ばして上品に食べる姿はいかにも上流階級と渡り歩いてきた風格が出ていました。美恵子にしては清家と歳の差がありすぎますが‥どうなのでしょう。