王様に捧ぐ薬指

「私を一人にしないで」と泣きながら東郷に縋る必死な姿や、桜庭と本当の親子として向き合って抱き合う時の穏やかな表情、結婚式での憑き物が落ちたような清々しい笑顔、存在感も演技も主役並みに印象深くて素晴らしかったです。お着物が似合って見た目が美しいのはもちろんだけど、スマホを手に取る仕草や歩き方、振り返り方など何気ない所作も流れるようにしなやかで品があり、その隙のない会長夫人ぶりが「すべてを捨てて新田家に嫁いできた」という静の覚悟を感じさせるところも良かったと思います。

綾華と東郷の会見を観ている時の嬉しそうな表情や、画面に映った綾華を手で隠す時の冷たい笑み、呉服屋で「嬉しいことがあって」とご機嫌な様子で華やかな色合いの生地を選ぶ姿、どのシーンも上品さと淑やかさはいつも通りなのに、綾華への憎悪と東郷への執着がいつも以上にじっとり滲んでくるような怖さがあって見応えがありました。やってることは陰湿で卑怯なんだけど、下品さや下衆さを感じさせないところもさすがだなと思いました。

桜庭とのシーン、目を真っ赤にして我慢していたのについ流れ出てしまう涙や、唇を嚙みしめた辛そうな表情、「あなたの母にはなれない」と冷たく突き放す頑なな態度、いつもの取り繕った完璧な姿が嘘のように剥がれ落ちて必死に感情を押し殺そうとする姿がとても良かったです。東郷に「母じゃない」と言われた時の何とか笑顔を保って料理を続けるシーンも「東郷の母」としての意地が感じられて印象に残りました。

神山と取引する時の「あなたの未来に投資したい」といういかにも親身な態度や口調、何でもない世間話のようなトーンで東郷と綾華を引き離して欲しいと口にする姿、表向きはいつも品よく穏やかに取り繕う姿が美しくもあり怖くもあり、出番は少なめだけどさすがの存在感を発揮していると思います。神山が綾華に本気になってしまった時の「好都合じゃないですか」という台詞も、手を引かせて欲しいと頼む神山に喰い下がる姿も、何としても二人を引き離したい執念と東郷への強い執着が感じられてゾッとしました。

東郷との確執を知ってから改めて誕生日お祝いのシーンを思い出すとゾッとします。常に美しくて微笑みを絶やさないから余計に何を考えてるか分からないミステリアスさがあって、口調も表情も一見穏やかで優しいのにめちゃくちゃ怖い。東郷を見つめる視線や態度に妙な湿度があるというか、限られた出番の中で東郷への拗らせた執着のようなものをしっかり滲ませるところもさすがだなと思います。

たまに見せる意味深な表情が印象的。どちらかというとネガティブな感じを受ける複雑な顔をしていて、何を考えてるのか分からない怖さがあり、その本心が掴めない雰囲気が上流社会の人間らしくて良いですね。お着物も髪型も毎回上品で美しくて見惚れてしまいます。「家族ですから」と金太郎にお金を渡す時の微笑みも、何か裏がありそうな含みを感じさせて良かったと思います。

乗馬する姿もピンとしていてカッコよく、和装も着慣れている感じ言葉遣いも丁寧で美しい。庶民育ちのお嫁さんとの格の違いを立ち振る舞いで見せていましたね。こういう人を見ると武器は若さだけじゃないんだなと嬉しくなります。

歩き方も旦那さんから上着を受け取りそれをハンガーにかける仕草も、日常の何気ない所作が無駄なく流れるように優雅で素敵。きちんと躾けられた育ちの良さと良家ならではの余裕を感じさせます。東郷の家を訪問するシーンでは、軽く咳払いをして綾華にもてなしをするよう示したり、ティーバッグで紅茶を淹れる様子に驚いていたり、一緒に外出した際も時折溜息をついたり呆れたような視線を向けたりと、庶民丸出しな綾華にもの言いたげなちょっとピリついた空気感を醸し出しているところも良かったです。

ピンと伸びた姿勢と綺麗に揃えられた指先、ゆったり落ち着いた話し方、大企業の会長夫人に相応しい上品な立ち居振る舞いと雰囲気が素晴らしかったです。和服姿も美しく、近寄りがたそうな気高い空気を醸し出していて、庶民の綾華とは別世界の人間という壁のようなものを感じさせたのも良かったと思います。