グレイトギフト

郡司先生の奥さんを殺す場面がとても怖かったです。まるで手品でもするように素早く毒を入れ、表情ひとつ変えることなくそれを飲み干すのを見ているところが恐ろしい。苦しみだしても何にも感じていなそうだし。権力に溺れると我を忘れるんだなーと思った。

白鳥は本気で自分が医療界や病院を良い方向に導こうと思っていたのだろうね。だから「患者」を救うことには真摯だった。だからこそ「患部」とか「ガン」になるものは容赦なく切り捨てられる。彼に殺された者たちは彼にとって「悪性腫瘍」みたいなものだったのでしょう。蔵之介さんはそんな白鳥の怜悧さと、熱いカリスマ性を見事に表現していたと思います。口元は微笑んでいるのに笑わない目は、冷やかさ共に、熱い狂気が伝わってきました。文句なくうまい。

琴葉のオペが終わったあとのやりきったようなホッとした表情や、神林にお礼を言われて手を握られた時の遠くを見つめるような眼差しなど、悪魔のような暴走が嘘みたいな、憑き物が落ちた穏やかな雰囲気を漂わせている姿が印象的でした。患者やその家族からの「ありがとう」で十分満足していた頃を思い出しているような切なさを感じさせたのも良かった。患者を救いたいという強い信念を持った医師の顔と、邪魔者は平気で殺すという裏の顔、アンバランスな価値観を持ったキャラクターをガラッと芝居を変えることなく、目の動きやちょっとした表情の変化で見事に表現していて、毎回圧倒的な存在感を示していたのもさすがです。

やっぱりここぞと言う時に決めてくれる。真犯人が白鳥の部屋のドアを開けて終わるのだけれど、その白鳥の表情で犯人が誰なのか推測するのがとても楽しかった。あなたでしたかと目をキラキラさせるから白鳥でも想像の上をいく人物だと分かったしこちらまでワクワクした。

琴葉のオペを盾に神林に暗殺の実行犯をやらせたり、久留米を殺害した後の反応を見てから藤巻を殺すと平然と言い放ったり、命を助ける医師とは思えない冷酷で非常なやり口と、それを何でもないことのように淡々と行うサイコっぷりが怖すぎる。嫌悪感とか腹立たしいっていうのとは少し違う、見ていると背筋が寒くなるような、恐怖がジワジワ浸食してくるような独特な雰囲気があるところも、白鳥の異常さをより際立たせていて良いと思います。

自分は簡単に邪魔者を殺すくせに、真犯人に病院の患者を殺害されると怒りを露わにして医者としての信念を口にする矛盾したところが怖い。患者の死と邪魔者の死、同じ「人の死」だけど、それはそれ、これはこれって白鳥の中で線引きがはっきりしているのが感じられて、それをサラっと切り替えられるところもサイコパスっぽい思考でゾッとします。ギフトのコピー防止機能の研究を命じたり、そのためのラボや藤巻の住居もすぐ用意したり、神林に協力を仰いだり、今何をすべきか的確に判断して決断が早いところも、白鳥の賢さと有能さを再認識させられました。

圧が強い笑。あの目で見つめられたら嘘なんか絶対つけないと思う。藤巻先生がオドオドしちゃうのも無理ないなって思います。動きはそんなに大きくないのにどこまで行っても追いかけてくるような執拗な感じが精神的にきますね。

藤巻に「うぬぼれるなよ」と忠告する時の怒りを必死で抑えた様子や、「お前は一生私には勝てない」とドヤる姿など、開き直った藤巻にあからさまに苛立つ様子が、いつも温厚で本心を出さない白鳥らしくなくて印象に残りました。取引の場でむやみに質問に答えたり発言しない姿も、白鳥の用心深さと賢さを感じさせて良かった。ギフトの創造者から連絡があった時の緊張感漂う表情も、ギフト関連の事件で初めて見せた動揺が感じ取れて良かったと思います。

何のためらいもなく鶴下にギフトを注射したり、苦しむ鶴下を平然と見下ろしていつもと変わらないトーンで話しかける姿が怖かった。鶴下が倒れた直後の「鶴下さん！」というさも心配しているって感じの叫び声もしらじらしい。郡司の裏切りにもとっくに気付いているし、杏梨や久留米まで掌握しているし、真相に近づく神林にはすかさず娘のことを持ち出して牽制したり、目的のためなら何でもやる白鳥の狡猾さと賢さが随所で感じられるところもラスボスらしい貫禄があって良かったと思います。

新しい機材を導入してより良い医療が提供出来るように治療体制を整えたり、医師や看護師の労働環境も改善したり、医師としても改革者としても素晴らしいけど、そのためには邪魔者は平気で排除するっていう冷酷さもあって、その両極端な顔を大きく芝居を変えることなく表現しているのが凄いです。あからさまに変えていないけど、ちゃんと表と裏の顔を使い分けているのが分かる、その絶妙な塩梅もさすがです。

自分が殺しておいて、殊勝な面持ちで伊集院の死を悼み、泣いている奈良を慰める姿にゾッとしました。瞬時に理想の医師・人格者の仮面を被れるところが怖過ぎるし、そういう二面性のあるサイコパスがすごく似合う。目的のために殺人を重ねているけど、その根底に「理想の医療を実現して人の命を救いたい」という医師として大変立派な志しがあるっていうチグハグでアンバランスなところも、白鳥の歪んだ使命感や思想を際立たせていて良いですね。

自分の地位向上に対する欲望というよりは、ある種のサイコパスですよね。医師であり、語る理念はそれらしい説得力があるけど、行動だけを追えば、手っ取り早く邪魔者を排除するのみ。これまで政争にあけくれていたのは単にギフトがなかったからで、それを手にすればただの殺人鬼として、欲望に忠実にエリミネートしていく。蔵之介さんの芝居は目の表情が言葉以上に何かを語っているし、パッシブで身体を動かしていないのに、アクティブな情動がうごめいている感じを与え、動きがあるように錯覚する。とにかく上手い。

奥野が倒れた時の「無」の眼差しや、杏梨に「近しい人を続けて亡くされて～」と挨拶する時の探るような視線、ギフトの力が証明されたと喜ぶ時の狂気を感じさせる目のギラつき。どのシーンでも目の演技がとても印象的で、普通の感覚を持った人間とは異なる空気を醸し出していて、その目を見ただけで神林が白鳥が犯人だと疑う説得力があります。患者に見せる表の顔と藤巻に見せる裏の顔で、声のトーンや口調に大きな変化がないところも白鳥の怖さを際立たせていて良いと思います。

患者のことを最優先に考える優秀な医師で人格者でもあって、でもその完璧さや人の好さそうな笑顔に登場時から何処か胡散臭さを滲ませていて、後半の暴走が考えなしの突発的なものに見えなかったのが良かった。「この人、絶対何かありそう」っていう絶妙な匂わせっぷりがさすがです。奥野を殺害した後も全く怯えたり悪びれることなく「神から贈られたギフトだ」と惚れ惚れした表情で殺人球菌を見つめる姿もサイコみがあって良かったです。

何を考えて（企んで）るのか分からない人を演じさせたら、上手な役者さんの一人ですね。特に、目の表情が良いというか、虹彩が明るいせいもあって、余計に得体のしれない人感が出てる。